コロナ給付金詐欺、自首相談相次ぐ 「自分も逮捕されるのでは」

ニュース内容

新型コロナウイルスの影響で収入が減った事業者などを支援するため、国が設けた持続化給付金の不正受給が相次いで見つかっている。迅速な給付のために申請や審査が簡素化されたが、その仕組みが逆手にとられ、悪用されていた。

「私がやったことは犯罪になってしまうのでしょうか」。持続化給付金を不正受給した人から警察への自首同行の依頼を受け付けている上原幹男弁護士(第二東京弁護士会)には、こうした相談が相次いでいる。8月中旬以降、約30件の問い合わせがあった。

■自首決める人、多数

相談の大半は学生かフリーター。LINEや友人を通じて不正の手口を教える「指南役」とつながり、犯罪という認識がないまま不正に手を染めていたケースが多いという。「個人事業者」と偽って申請し、100万円の給付を受けて指南役に10万~60万円の「手数料」を請求されていたとされる。

山梨県警が7月下旬、給付金を不正受給した疑いで大学生を逮捕した事件をきっかけで自首を決めた人が多く、上原弁護士は「自分も逮捕されるのはないかと恐怖を感じたようだ」と話す。全額に手を付けずに相談に来た人もいたという。

自首すれば立件されないという保証はない。それでも上原弁護士は「依頼者は罪を背負っていくんだと決心したように見えた」と話す。

持続化給付金の不正受給について、警察は国から給付金をだまし取ったとする詐欺容疑で摘発を続けている。警察庁のまとめでは、7月下旬以降、不正受給にかかわったとして8都府県警が32人を逮捕、2人を書類送検した。

34人がかかわった申請は21件で、うち20件は個人事業者向けの給付金100万円をだまし取った詐欺容疑で、詐取額は計2千万円。申請したが書類の不備で受理されなかった詐欺未遂容疑が1件ある。

10/4(日) 9:30配信 朝日新聞社

今回のニュースは、いわゆる持続化給付金詐欺(コロナ給付金詐欺)の疑いでの摘発が続いており、それを受けて自らの行為が犯罪かどうか、また自首すべきかどうかなどの相談が相次いでいるというものです。

このニュースのとおり、弊所でも7月ごろから相談を受け始め、月を追うごとにつれ増加傾向にあります。

そこで今回は、持続化給付金の不正受給が詐欺罪にあたるのか、また自首をするとどうなるのかについて解説したいと思います。

持続化給付金の不正受給は詐欺罪?

詐欺罪は、刑法上下記のように規定されています。

(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑法

持続化給付金の不正受給においては、まず騙される相手が国(国家)であることから、そもそも詐欺罪が成立するのかという問題(論点)があります。

結論としては、裁判例上、欺く行為によって国家的法益を侵害する場合でも、それが同時に詐欺罪の保護法益である財産権を侵害する以上、行政法規の罰則が特別法として詐欺罪の適用を排除する趣旨と認められないかぎり、詐欺罪が成立するとされています。

簡単に言うと、ほかの行政にかかわる法律の罰則で、特別に詐欺罪については問わないとしているような場合でないかぎり、騙される相手が国であっても詐欺罪になるということです。

たとえば判例上、生活保護や国民健康保険証の不正受給も詐欺罪が成立するとされています。

そして持続化給付金にあっては、特別に詐欺罪については問わないという罰則を定める規定はないので、その不正受給については詐欺罪が成立し得ることになります。

また友人や知人が言うままに誘われて行ってしまっただけであったり、その友人や知人に手数料を取られているなどで、自らが主体的に不正受給をしたわけではないとの言い分があるかとも思われます。

しかしながら、本来持続化給付金を受給できる資格がないにもかかわらず、偽造した書類などを提出し、資格があると騙して給付金を受け取っている以上、詐欺罪に該当すると言わざるを得ません。

厳しい言い方になりますが、誘われたというのはあくまで動機の問題ですし、手数料を取られているかどうかは詐欺罪の成立に関係のないものだからです。

ですので、持続化給付金を受給できる資格がないことを認識していたうえで、偽造書類の提出に加担し、給付金を受領してしまっていれば、まず詐欺罪が成立するでしょう。

したがって、持続化給付金の不正受給は詐欺罪に該当する行為といえます。

自首すればどうなるのか?

自首については、刑法上下記のように規定されています。

(自首等)
第四十二条 罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
2 告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。

刑法

そもそも「自首」とは、犯人が捜査機関に自発的に自己の犯罪事実を申告し、その訴追を含む処分を求めることをいいます。

したがって、たとえば捜査機関に重要参考人などで任意の取調べ(事情聴取)を受けた際に、犯罪を自白や自供したとしても「自首」にはなりません。
自発的に行ったとはいえないからです。

また条文にあるよう、捜査機関に発覚する前の申告でなければならないとされています。
ですので、捜査機関が当該犯罪に対する犯人が誰かにつき既に知っていれば、自首とはなりません。

そして自首したときは、「刑を減刑することができる」というのは、あくまで裁判所の裁量判断に委ねられるということですので、絶対に刑が減刑されるということにはなりません。

とはいえ自首したことは、情状の判断において有利に判断される事情の1つであることは間違いありません。
仮に自首とならなくても、自ら捜査機関に対して正直に犯罪事実を申告したり認めることも同様といえます。

ですので、もしすでに持続化給付金の不正受給をしてしまっている場合、一刻も早く警察に対して名乗り出ることは少しでも自らの罪を軽くすることができる手段として有効であるといえるでしょう。

なお、どのように自首したらよいかなど1人で警察に行くのは不安な方もいらっしゃることでしょう。

弊所では、弁護士による自首同行の依頼も受けておりますので、ご不安のある方は遠慮なく当事務所にご相談ください。

Bio

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。
東京弁護士会所属(登録番号:50133)
男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。