ジャパンライフ元会長逮捕!預託商法(オーナー商法)と詐欺・特商法違反について

ジャパンライフ株式会社、東京都千代田区に本社を置く代替医療機器製造販売会社の元会長らがついに詐欺罪で逮捕されました。
(なお同社自体も、マルチ商法・ねずみ講などの疑いから、過去には複数回の行政処分を受けています。)

今回の事件は、被害総額が2100億円にものぼる巨大詐欺事件といわれてます。

そこで今回は、このジャパンライフ詐欺事件で用いられた「預託商法(オーナー商法)」、その詐欺罪の該当性、当初の捜索差押の際の罪状である特定商取引法違反などについて解説いたします。

また、本件を含めた預託商法による巨額事件が起こったことにより、令和3年に預託法が改正されました。

改正預託法については、以下の記事をご参照ください。

ジャパンライフ元会長が詐欺で逮捕されたニュース

磁気治療器の預託商法などを展開し約2400億円の負債を抱え破綻した「ジャパンライフ」をめぐり、警視庁や5県警の合同捜査本部は18日、詐欺容疑で創業者の元会長、山口隆祥(たかよし)容疑者(78)=東京都文京区千駄木=ら計14人を逮捕した。捜査本部は全国の延べ約1万人から約2100億円を集めた巨大詐欺事件とみており、資金の流れなどを調べる。

逮捕容疑は、同社が債務超過と知りながら、利息や元本を支払うと偽り、平成29年8~11月、顧客12人から、計約8000万円を詐取したなどとしている。

同社は昭和50年に健康器具などの製造販売業として設立。磁気ネックレスなど100万~600万円の高額な磁気治療器を販売する一方、購入商品を別の顧客に貸し出す「オーナー」になれば、レンタル料収入を得られ、6%程度の利息を上乗せして返還する「レンタルオーナー制度」という預託商法を展開していた。

被害対策弁護団などによると顧客から約2千億円を集めたが、レンタルされるはずの製品は8割程度が実在していなかった。

消費者庁は平成28以降、計4回にわたり一部業務停止命令を出しマルチ商法と認定。民間信用調査機関によると、29年3月末時点の負債は総額2405億円で、30年3月に東京地裁が破産手続きを開始した時点の保有資産は4億円ほどだった。

合同捜査本部は31年、特定商取引法違反(事実の不告知)容疑で元会長宅などを家宅捜索していた。“ 

産経新聞 2020.9.18 11:05

預託商法(オーナー商法)とは? ~詐欺罪との関係~

「預託商法(オーナー商法)」とは、物品や権利等を販売すると同時にその物品・権利を預かり、生産・運用・レンタル・管理・保管などで得られる利益の高さをうたって資金を集める商法のことをいいます。
別の言い方では「販売預託商法」「現物まがい商法」「ペーパー商法」と呼ばれたりもします。

この「預託商法(オーナー商法)」においては、もちろん真っ当に事業を行っている会社もある一方、今回のジャパンライフ社のように詐欺・悪徳商法と言わざるを得ない会社が多いことも残念ながら事実です。

今回の詐欺事件では、まずジャパンライフ社が磁気ネックレスなどを販売し、これを買い受けた詐欺被害者となる買主が、磁気ネックレス等のオーナーとなる仕組みです。

そして詐欺被害者である買主は磁気ネックレス等をジャパンライフ社に預け、ジャパンライフ社がこの磁気ネックレス等をレンタルしてレンタル料を稼ぎ、その収益を詐欺被害者である買主(オーナー)に還元するとうたいます。

しかしながら実際は、ジャパンライフ社はこの磁気ネックレス等のレンタル事業で収益を上げる意思はなく、むしろ買主(オーナー)から代金を巻き上げる意思のもと、磁気ネックレス等を販売していたのではないかとの疑いが出てきました。

そこで、ついに詐欺罪(刑法246条)で逮捕されたというものです。

ちなみに、なぜ詐欺罪で逮捕されるまでこれだけの時間がかかったのか、疑問に思う方もいるでしょう。
詳しくは後述しますが、詐欺罪は立証が難しい犯罪です。
それゆえ入念な捜査が必要となり、その分どうしても被害時から遅れて逮捕となってしまうことがよくあるのです。

なおジャパンライフ事件と同様、オーナー商法による大規模な詐欺事件でケフィア事業振興会事件については、以下の記事をご参照ください。

特商法とは? ~連鎖販売取引~

上述したように、今回の逮捕の前には、特商法違反容疑でいわゆる家宅捜索が入っていました。
ここでは「特商法」という法律について簡単に説明いたします。

特商法の正式名称は、「特定商取引に関する法律」です。
この法律は、消費者トラブルが起きやすい取引について、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的として定められました。

特商法は、争いが起きやすい取引として、同法が列挙した7つの取引について適用されます。

  • 訪問販売
  • 通信販売
  • 電話勧誘販売
  • 連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)
  • 特定継続的役務提供(語学教室、エステサロンなど)
  • 業務提供誘引販売取引(仕事を提供するといってその仕事に必要な物品を買わせる等する取引)
  • 訪問購入

ジャパンライフが行なっていた磁気治療器の預託商法(オーナー商法)は、上記のうち「連鎖販売取引」(特商法33条1項)にあたります。
なお連鎖販売取引にあたるといえるためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

  1. 物品の販売(または役務の提供など)の事業であって、
  2. 再販売、受託販売もしくは販売のあっせん(または役務の提供もしくはそのあっせん)をする者を、
  3. 特定利益が得られると誘引し、
  4. 特定負担を伴う取引(取引条件の変更を含む。)をする取引

(定義)
第三十三条 この章並びに第五十八条の二十一第一項及び第三項並びに第六十七条第一項において「連鎖販売業」とは、物品(施設を利用し又は役務の提供を受ける権利を含む。以下この章及び第五章において同じ。)の販売(そのあつせんを含む。)又は有償で行う役務の提供(そのあつせんを含む。)の事業であつて、販売の目的物たる物品(以下この章及び第五十八条の二十一第一項第一号イにおいて「商品」という。)の再販売(販売の相手方が商品を買い受けて販売することをいう。以下同じ。)、受託販売(販売の委託を受けて商品を販売することをいう。以下同じ。)若しくは販売のあつせんをする者又は同種役務の提供(その役務と同一の種類の役務の提供をすることをいう。以下同じ。)若しくはその役務の提供のあつせんをする者を特定利益(その商品の再販売、受託販売若しくは販売のあつせんをする他の者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんをする他の者が提供する取引料その他の主務省令で定める要件に該当する利益の全部又は一部をいう。以下この章及び第五十八条の二十一第一項第四号において同じ。)を収受し得ることをもつて誘引し、その者と特定負担(その商品の購入若しくはその役務の対価の支払又は取引料の提供をいう。以下この章及び第五十八条の二十一第一項第四号において同じ。)を伴うその商品の販売若しくはそのあつせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんに係る取引(その取引条件の変更を含む。以下「連鎖販売取引」という。)をするものをいう。

特定商取引に関する法律

連鎖販売取引における「事実の不告知」とは?

連鎖販売取引における「事実の不告知」とは、特商法34条で禁止されている行為で、ほかには、「不実の告知」も禁止しています。

この規定に違反すると、主務大臣の指示(特商法7条)、業務停止命令(特商法8条)といった行政措置の対象となります。

そして告知すべき事項は下記とされています。

  1. 商品の種類及びその性能、品質などに関する事項
  2. 当該連鎖販売取引に伴う特定負担(購入者が負う経済的負担)に関する事項
  3. 当該契約の解除に関する事項
  4. その連鎖販売業に係る特定利益(購入者が受ける利益)に関する事項
  5. 前各号に掲げるもののほか、その連鎖販売業に関する事項であって、連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの

今回のジャパンライフ事件では、債務超過という消費者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事実を告知しなかったので、5にあたります。

(禁止行為)
第三十四条 統括者又は勧誘者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約(その連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあつせん又は役務の提供若しくはそのあつせんを店舗その他これに類似する設備(以下「店舗等」という。)によらないで行う個人との契約に限る。以下この条及び第三十八条第三項第二号において同じ。)の締結について勧誘をするに際し、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を妨げるため、次の事項につき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為をしてはならない。
一 商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の種類及びその性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の種類及びこれらの内容その他これらに類するものとして主務省令で定める事項
二 当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項
三 当該契約の解除に関する事項(第四十条第一項から第三項まで及び第四十条の二第一項から第五項までの規定に関する事項を含む。)
四 その連鎖販売業に係る特定利益に関する事項
五 前各号に掲げるもののほか、その連鎖販売業に関する事項であつて、連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの

特定商取引に関する法律

連鎖販売取引における特商法違反と詐欺罪との違いは?

連鎖販売取引において上記のような債務超過の事実を隠して取引をするという行為は特商法違反となるだけでなく、場合によっては今回の事件のように刑法上の詐欺罪が成立することもあります。
ここでは、両者の成立要件の違い、両者が成立する場合の関係について説明いたします。

まず特商法違反については、「事実の不告知」のほか後述する禁止行為等に該当すれば、それが過失によるものであったとしても違反となりえます。

これに対して刑法上の詐欺罪の場合、下記が成立要件とされています。

  1. 欺罔(欺く)行為を行い、
  2. これによって相手方(被害者)が錯誤に陥り、
  3. その錯誤に基づき財物を交付し、
  4. 結果、当該財物を取得し、または財産上不法の利益を得ること

(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑法

なお連鎖販売取引における「事実の不告知」は、上記のうちの1.欺罔(欺く)行為にあたります。

すなわち、「事実の不告知」があると、特商法上ではそれのみで違法となります。
一方、刑法上は欺罔(欺く)行為となる「事実の不告知」にくわえ、他の3つの要件を満たして初めて詐欺罪が成立します。
さら刑法上は、犯罪者の故意が要求されます。

ですので、特商法違反の方が成立しやすいということができます。

なお、特商法違反となると同時に刑法上の詐欺罪の成立要件も満たす場合は、特商法と刑法は目的が異なる法律であることから、両方について犯罪が成立するとされています。

連鎖販売取引におけるその他の規制

連鎖販売取引には上記の重要事実の告知義務の他にも様々な規制があります。
ここでは、それらの規制について説明いたします。

・氏名などの明示(特商法33条の2)

業者は、連鎖販売取引を行うときには、勧誘に先立って、消費者に対して、業者の氏名特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をする目的である旨その勧誘にかかわる商品または役務の種類などの事項を告げなければなりません。

(連鎖販売取引における氏名等の明示)
第三十三条の二 統括者、勧誘者(統括者がその統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引について勧誘を行わせる者をいう。以下同じ。)又は一般連鎖販売業者(統括者又は勧誘者以外の者であつて、連鎖販売業を行う者をいう。以下同じ。)は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引をしようとするときは、その勧誘に先立つて、その相手方に対し、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の氏名又は名称(勧誘者又は一般連鎖販売業者にあつては、その連鎖販売業に係る統括者の氏名又は名称を含む。)、特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をする目的である旨及び当該勧誘に係る商品又は役務の種類を明らかにしなければならない。

特定商取引に関する法律

・禁止行為(特商法34条)

「事実の不告知」「不実の告知」以外にも、業者が契約の締結についての勧誘を行う際、取引の相手方に契約を解除させないようにするために嘘をつくことや威迫して困惑させるなどの不当な行為を禁止しています。

禁止行為)
第三十四条 統括者又は勧誘者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約(その連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあつせん又は役務の提供若しくはそのあつせんを店舗その他これに類似する設備(以下「店舗等」という。)によらないで行う個人との契約に限る。以下この条及び第三十八条第三項第二号において同じ。)の締結について勧誘をするに際し、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を妨げるため、次の事項につき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為をしてはならない。
一 商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の種類及びその性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の種類及びこれらの内容その他これらに類するものとして主務省令で定める事項
二 当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項
三 当該契約の解除に関する事項(第四十条第一項から第三項まで及び第四十条の二第一項から第五項までの規定に関する事項を含む。)
四 その連鎖販売業に係る特定利益に関する事項
五 前各号に掲げるもののほか、その連鎖販売業に関する事項であつて、連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの
2 一般連鎖販売業者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の締結について勧誘をするに際し、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を妨げるため、前項各号の事項につき、不実のことを告げる行為をしてはならない。
3 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約を締結させ、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を妨げるため、人を威迫して困惑させてはならない。
4 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに営業所、代理店その他の主務省令で定める場所以外の場所において呼び止めて同行させることその他政令で定める方法により誘引した者に対し、公衆の出入りする場所以外の場所において、当該契約の締結について勧誘をしてはならない。

特定商取引に関する法律

・広告の表示(特商法35条)

業者は、連鎖販売取引について広告する場合には、その連鎖販売に関して、以下のような事項を表示することが義務づけられています。
商品の種類、取引に伴う特定負担に関する事項、特定利益について広告をするときにはその計算方法、統括者などの氏名、住所、電話番号、連鎖販売業に関する業務の責任者の氏名、商品名などです。

(連鎖販売取引についての広告)
第三十五条 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に、その連鎖販売業に関する次の事項を表示しなければならない。
一 商品又は役務の種類
二 当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項
三 その連鎖販売業に係る特定利益について広告をするときは、その計算の方法
四 前三号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項

特定商取引に関する法律

・誇大広告などの禁止(特商法36条)

誇大広告や著しく事実と相違する内容の広告による消費者トラブルを未然に防止するため、表示事項などについて、「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止しています。

(誇大広告等の禁止)
第三十六条 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引について広告をするときは、その連鎖販売業に係る商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の内容、当該連鎖販売取引に伴う特定負担、当該連鎖販売業に係る特定利益その他の主務省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。

特定商取引に関する法律

ジャパンライフ事件のまとめ

今回のジャパンライフ事件のように、特商法の規制に反している取引は詐欺であることも過去の歴史からして類型的に高いといえます。
そして前述したとおり、「預託商法(オーナー商法」は詐欺の手口として用いられやすい商法でもあります。

それゆえ、高配当や高利息など甘い言葉での勧誘話であればあるほど、詐欺の可能性も疑って慎重に判断すべきです。
また現に締結している契約においても、配当が遅れる、追加の契約をしつこく迫ってくるなど少しでも疑わしい点があれば要注意です。


最後にどのような状況にせよ、詐欺に遭っているかもと思った際には遠慮なく当事務所にご相談ください。

Bio

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。
東京弁護士会所属(登録番号:50133)
男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。