店長でも残業代は出る!管理監督者の判断基準・チェックリスト付き

店長でも残業代は出る!管理監督者の判断基準・チェックリスト付き

「店長だから残業代は出ない」と言われ、長時間労働を続けていませんか。

たしかに、労働基準法上の「管理監督者」に当たる場合には、原則として残業代は支払われません。しかし、実際には店長という肩書だけで残業代が支払われていないケースも多く、いわゆる「名ばかり管理職」として未払い残業代を請求できる可能性があります。

特に、飲食店や小売店などでは、本部の指示どおりに動き、現場業務に追われながら長時間働いているにもかかわらず、十分な権限や待遇が与えられていない店長が少なくありません。このような場合、管理監督者には当たらず、残業代請求が認められる余地があります。

グラディアトル法律事務所では、これまでに店長やマネージャーなど「名ばかり管理職」に関する残業代請求を多数取り扱い、数百万円規模の回収に成功した実績があります。実際に、店長の方が和解により650万円の残業代を獲得した事例もあり、豊富な経験とノウハウをもとに適切なサポートを行っています。

本記事では

・店長が残業代請求できるかどうかの判断基準や典型的なケース
・残業代の請求手順
・店長の残業代が認められた裁判例

などをわかりやすく解説します。

店長として働いているものの、実際には十分な権限や待遇がないという方は、本記事を参考に残業代請求を検討してみましょう。

目次

店長でも「名ばかり管理職」なら残業代が支払われる可能性あり!

店長という肩書があっても、すべてのケースで残業代が支払われないわけではありません。ここでは、「名ばかり管理職」とは何か、そしてなぜ店長でも残業代請求が可能となるのかを説明します。

「名ばかり管理職」とは?

「名ばかり管理職」とは、店長やマネージャーといった役職名が付いているにもかかわらず、実際には労働基準法上の「管理監督者」といえるだけの権限や待遇、働き方が与えられていない労働者を指します。

労働基準法では、管理監督者に該当する場合、労働時間や休憩、休日に関する規制が適用されず、残業代(時間外・休日労働の割増賃金)が発生しないとされています。しかし、ここでいう管理監督者とは、単なる役職者ではなく、経営者と一体的な立場にある人を意味します。

具体的には、店舗運営に関する重要事項を自ら決定できる権限を持ち、労働時間についても大きな裁量があり、さらにそれに見合う高い給与や待遇を受けていることが求められます。

そのため、肩書だけで「管理職」とされている場合でも、実態が伴っていなければ管理監督者とは認められず、「名ばかり管理職」として残業代請求が可能になるのです。

「店長」という役職名ではなく実態で判断する

管理監督者に該当するかどうかは、「店長」「マネージャー」といった役職名ではなく、実際の働き方や権限、待遇といった実態によって判断されます。

たとえば、会社が就業規則で「店長は管理職とする」と定めていたとしても、それだけで残業代の支払い義務がなくなるわけではありません。あくまで、現場でどのような権限を持ち、どのように働いているのかが重視されます。

実際の現場では、店長であっても本部の指示どおりに業務を行い、採用や人事の最終決定権もなく、長時間にわたり現場業務に従事しているケースが多く見られます。このような場合には、管理監督者とはいえず、残業代請求が認められる可能性が高くなります。

したがって、「店長だから残業代は出ない」と一律に考えるのではなく、自身の働き方や権限の実態を踏まえて判断することが重要です。

店長が残業代請求可能な「名ばかり管理職」にあたるかどうかの判断基準

店長が残業代請求可能な「名ばかり管理職」にあたるかどうかの判断基準

店長が管理監督者に当たるかどうかは、役職名ではなく「実態」によって判断されます。ここでは、裁判例や行政の考え方を踏まえた主な判断基準を説明します。

職務内容および責任・権限|重要事項の決定権があるか

管理監督者といえるためには、単なる現場責任者ではなく、経営者と一体的な立場で重要な意思決定に関与している必要があります。

たとえば、以下のような権限があるかがポイントになります。

・アルバイトや従業員の採用・解雇の最終決定権
・人事評価や昇給に関する実質的な決定権
・店舗の売上方針や予算に関する裁量
・労務管理(シフト・配置など)に関する広い裁量

これに対して、本部の指示に従って業務を行うだけであったり、形式的に関与しているにすぎない場合には、管理監督者とは認められにくいです。

勤務態様|出退勤時間を自分で決められるか

管理監督者は、一般従業員のように厳格な労働時間管理を受けない立場にあるため、出退勤の自由度が高いことが求められます。

たとえば、以下のような事情がある場合は、管理監督者性が否定されやすくなります。

・シフトによって勤務時間が固定されている
・開店から閉店まで店舗に拘束されている
・遅刻・早退で給与控除や評価低下がある
・会社の指示で出退勤時間が厳しく管理されている

特に、アルバイトと同じようにシフトに組み込まれている場合には、労働時間の裁量がないと評価される傾向にあります。

賃金などの待遇|一般従業員よりも高い給与水準

管理監督者には残業代が支払われないため、その分、一般従業員よりも優遇された給与や待遇が求められます。

具体的には、以下の点が考慮されます。

・役職手当や基本給が十分に高いか
・年収が一般社員より明確に高い水準にあるか
・実際の労働時間で割った場合の時給が低すぎないか

もし、長時間労働にもかかわらず、時給換算するとアルバイトと大差ない、あるいは下回るような場合には、管理監督者とは認められない可能性が高くなります。

このように、「名ばかり管理職」にあたるかどうかは、「権限」「働き方」「待遇」の3つの観点を総合的に見て判断されます。いずれか一つだけで決まるわけではなく、全体として管理監督者にふさわしいかどうかが問われる点に注意が必要です。

店長が「名ばかり管理職」に該当する典型的なケース

店長という立場であっても、実際には権限や裁量が乏しく、一般従業員と変わらない働き方をしているケースは少なくありません。ここでは、「名ばかり管理職」と判断されやすい典型的なケースを紹介します。

店長が「名ばかり管理職」に該当する典型的なケース

アルバイトの採用・解雇の権限がない店長

店長として面接を担当していても、採用の最終判断は本部やエリアマネージャーが行っている場合、実質的な人事権を持っているとはいえません。

また、問題のある従業員について解雇や契約更新の判断ができず、本部の承認が必要な場合も同様です。

人事に関する重要な決定権を持っていない場合、経営者と一体的な立場とは判断されにくく、管理監督者性は否定される方向に働きます。

売上目標、予算、新メニュー、販促キャンペーンなどを自分で決められず、本部の指示通り動いている店長

店舗運営において、売上目標や予算、価格設定、新メニュー、販促キャンペーンなどがすべて本部で決められている場合、店長の裁量は限定的です。

店長が行っているのが、本部の決定事項を現場で実行する業務にとどまるのであれば、経営判断に関与しているとはいえません。

このような場合も、管理監督者には該当しないと判断されやすくなります。

労働時間が自分で管理できず長時間労働の店長

慢性的な人手不足により、店長自身が長時間にわたり現場業務を担っているケースも名ばかり管理職の典型例です。

たとえば、以下のような状況です。

・調理や接客、レジ、清掃などを日常的に担当している
・アルバイトの欠勤時に穴埋めとしてシフトに入る
・休憩が取れず、連続勤務が常態化している

本来、管理監督者であれば管理業務が中心となるはずですが、現場のプレイヤーとして働いている時間が大半である場合、管理監督者性は否定されやすくなります。

アルバイトと同じようにシフトが決められていて、営業時間中はずっと拘束されている店長

店長であっても、アルバイトと同様にシフトが組まれ、勤務時間が固定されている場合は注意が必要です。

たとえば、

・開店から閉店まで勤務が固定されている
・シフトに従わなければならず、自由に休めない
・遅刻や早退で評価や給与に影響が出る

といった事情がある場合、労働時間に関する裁量があるとはいえません。

このような働き方は、一般従業員と同様の労務管理下にあると判断される可能性が高いです。

残業代がつかない結果、最低賃金に近い給与水準で働いている店長

店長として一定の固定給を受け取っていても、長時間労働の結果、時給換算すると非常に低い水準になっているケースも多く見られます。

たとえば、

・月給は高く見えるが、労働時間で割ると最低賃金に近い
・役職手当がわずかで、一般社員との差がほとんどない
・残業代が一切支払われていない

といった場合には、管理監督者に求められる待遇が確保されているとはいえません。

このように、待遇面でも優遇がない場合には、「名ばかり管理職」と判断される可能性が高くなります。

残業代請求をお考えの店長は要確認!名ばかり管理職のチェックリスト

「自分は名ばかり管理職なのかわからない」という方は、まず以下のチェックリストで確認してみましょう。複数当てはまる場合には、管理監督者ではなく、残業代請求が認められる可能性があります。

■名ばかり管理職チェックリスト
以下の項目にいくつ当てはまるか確認してみてください。

【権限に関するチェック】
□アルバイトや従業員の採用・解雇の最終決定権がない
□人事評価や昇給について実質的な決定権がない
□売上目標や予算、価格設定などを自分で決められない
□本部や上司の指示どおりに店舗運営をしている

【勤務態様に関するチェック】
□シフトに従って勤務しており、自由に出退勤を決められない
□開店から閉店まで店舗に拘束されることが多い
□遅刻や早退で給与控除や評価低下がある
□長時間労働が常態化している
□人手不足のため、自ら現場業務(接客・調理など)を担当している

【待遇に関するチェック】
□役職手当が少なく、一般社員と給与差がほとんどない
□長時間働いても残業代が一切支払われていない
□時給換算すると最低賃金に近い、またはそれ以下になる
□深夜勤務が多いのに深夜手当が支払われていない

■チェック結果の目安

・3項目以上該当  →名ばかり管理職の可能性があります。残業代請求を検討する価値があります。

・5項目以上該当  →管理監督者性が否定される可能性が高く、未払い残業代を請求できる可能性が十分にあります。

・多数該当(7項目以上)  →典型的な名ばかり管理職の可能性が高いといえます。早めに証拠を確保し、専門家へ相談することをおすすめします。

店長が残業代を請求する手順

店長として働いていて残業代が支払われていない場合でも、正しい手順を踏めば未払い残業代を請求できる可能性があります。ここでは、実際に請求を進める際の基本的な流れを説明します。

店長が残業代を請求する手順

【手順1】管理監督者に該当しないことを確認する

まず重要なのは、自身が労働基準法上の「管理監督者」に該当しないことを整理・確認することです。

前章までで解説したとおり、管理監督者かどうかは「役職名」ではなく、以下のような実態で判断されます。

・権限(人事・経営判断の裁量があるか)
・勤務態様(労働時間の自由度があるか)
・待遇(残業代が出ないことに見合う給与か)

これらを踏まえて、自分が「名ばかり管理職」であるといえるかを整理しておくことで、その後の交渉や手続きがスムーズになります。

【手順2】会社と交渉をする

次に、会社に対して未払い残業代の支払いを求める交渉を行います。

具体的には、以下のような方法があります。

・口頭や書面で支払いを求める
・内容証明郵便で正式に請求する
・弁護士を通じて交渉する

特に、弁護士を通じて請求することで、会社側が適切に対応する可能性が高まります。また、法的根拠を踏まえた主張ができるため、有利に交渉を進めやすくなります。

【手順3】労働審判の申立てをする

会社との交渉で解決しない場合には、労働審判を利用する方法があります。

労働審判は、裁判所で行われる手続ですが、通常の訴訟よりも迅速な解決を目的としており、原則として3回以内の期日で結論が出る点が特徴です。

未払い残業代請求では、労働審判で和解に至るケースも多く、比較的スピーディーに解決できる可能性があります。

【手順4】訴訟の提起をする

労働審判でも解決しない場合や、会社側が強く争っている場合には、訴訟を提起することになります。

訴訟では、以下の点が主な争点になります。

管理監督者に該当するかどうか
・実際の労働時間(残業時間)の認定
未払い残業代の金額

店長のケースでは、「管理職だから残業代は不要」という会社側の主張に対し、実態をもとに反論することが重要になります。

店長の未払い残業代はいくら請求できる?モデルケースをもとに残業代を計算

店長の残業代は、実際にどの程度請求できるのでしょうか。ここでは、架空のモデルケースをもとに、残業代請求の流れや認められたポイント、証拠の重要性について具体的に説明します。

モデルケース:飲食店の店長Aさん(30代男性)

店長の未払い残業代はいくら請求できる?飲食店の店長Aさんのモデルケース(30代男性)

Aさんは、全国チェーンの飲食店で店長として勤務していました。

月給は約34万円で、会社からは「店長は管理職なので残業代は支給しない」と説明されていました。

しかし、実際の勤務状況は以下のとおりでした。

・勤務時間:毎日10時~23時(休憩はほとんど取れず)
・月の労働時間:約280時間
・アルバイト不足により、接客・調理・レジ対応を日常的に担当
・採用面接は行うが、最終決定は本部
・売上目標やメニュー、キャンペーンはすべて本部が決定
・シフトに縛られ、自由な出退勤は不可

このような状況から、Aさんは「名ばかり管理職ではないか」と疑問を持ち、弁護士に相談しました。

残業代請求の経過

①弁護士による精査

まず、Aさんの勤務実態をヒアリングし、「管理監督者には該当しない可能性が高い」と判断されました。

②証拠の収集

Aさんは以下の証拠を提出しました。

・タイムカードの記録
・シフト表
・業務日報
・LINEでの業務連絡履歴
・給与明細

これにより、実際の労働時間と勤務実態を裏付けることができました。

③会社への請求・交渉

弁護士を通じて未払い残業代の支払いを請求しました。

当初、会社側は「店長は管理職」として支払いを拒否しましたが、証拠を提示したことで交渉が進展しました。しかし、納得いく金額の提示がなかったため、交渉を打ち切り、労働審判に進むことにしました。

④労働審判の申立て

交渉がまとまらなかったため、労働審判を申し立て。

調停の中で、会社側の主張する「管理職性」に合理性が乏しいことが指摘されました。

⑤和解成立(約520万円を回収)

最終的に、会社側が管理監督者性を争いきれず、約520万円の支払いで和解が成立しました。

残業代が認められたポイント

この事案で残業代請求が認められた主なポイントは、以下のとおりです。

①実質的な権限がなかった

採用・解雇や売上方針などの重要事項はすべて本部が決定しており、Aさんには実質的な決定権がありませんでした。

②労働時間の裁量がなかった

シフトに従って勤務しており、開店から閉店まで拘束されていたため、出退勤の自由が認められませんでした。

③現場業務が中心だった

店長でありながら、調理・接客などの現場業務に多くの時間を費やしており、管理業務中心とはいえない状況でした。

④賃金が見合っていなかった

長時間労働の結果、時給換算では一般従業員と大差ない水準となっており、管理監督者としての待遇が不十分と判断されました。

弁護士による解説

このケースのように、「店長=管理職」という会社の形式的な扱いだけでは、管理監督者とは認められません。

裁判や労働審判では、あくまで「実態」が重視されます。

特に重要なのは、以下の3点です。

・権限の有無(人事・経営判断に関与しているか)
・労働時間の裁量(自由に働けるか)
・待遇(残業代不支給に見合う給与か)

そして、これらを裏付ける客観的な証拠の有無が結果を大きく左右します。

店長のケースでは、長時間労働になりやすいため、未払い残業代が数百万円規模になることも珍しくありません。実際に本件でも、約520万円という高額な回収に至っています。

店長の残業代請求に成功した当事務所の事例を紹介|和解により650万円の残業代を獲得

店長であっても、実態次第では高額な残業代が認められるケースがあります。ここでは、グラディアトル法律事務所が実際に取り扱った事例をご紹介します。

店長の残業代請求に成功した当事務所の事例を紹介|和解により650万円の残業代を獲得

事案の概要

ご依頼者は、京都府内のスーパーマーケットで店長として勤務していた男性です。実際の労働条件としては、以下のような内容でした。

基本給30万円
役職手当5万円
固定残業代3万円

また、実際の労働時間としては、休日は月に4回で、月の労働時間は300時間~350時間という非常に過酷なものでした。

そこで、残業代の支払を求め、労働事件を多数取り扱っている当事務所に相談に来られました。

結果

ご依頼者からの相談内容を踏まえると、時効により消滅する可能性のある残業代があることが判明したため、弁護士は、直ちに内容証明郵便を送り、時効の進行をストップさせた上で、会社側に残業代の有無を確認するための資料の送付を求めました。

会社から送付された資料を精査したところ、最大で約900万円の未払い残業代を請求できる可能性があることが判明したため、その法的根拠を示しながら、会社側との交渉を開始しました。

会社側も弁護士に依頼したため、双方の弁護士同士で交渉を続けたところ、早期解決を希望するという双方の考えが一致したため、その後の労働審判で和解により解決することとなりました。具体的な和解内容は、残業代の総額が900万円であることを確認し、会社側が分割して650万円を支払うこと、会社が支払いを怠った場合は900万円全額を支払うといった内容です。

その後、ご依頼者は、会社側から650万円全額の支払いを受けることができました。

弁護士からのコメント

本事例では、ご依頼者に「店長」という肩書が付されていたため、労働基準法上の「管理監督者」(労働基準法41条2号)に該当するかが争点になり得る事案でした。

もっとも、「管理監督者」に当たるか否かについては、肩書のみならず、その職務内容や権限、待遇などを踏まえて判断することになります。

本事例では、肩書は「店長」であっても実際の職務内容や権限、待遇などが管理監督者とはいえず、会社側の代理人弁護士も積極的に争わなかったため、和解による早期解決ができました。会社から店長という肩書を与えられていたとしても、あきらめずに争うことで残業代が認められる可能性があります。

会社に対する残業代請求をしていきたいとお考えの方は、ぜひ一度、当事務所までお問い合わせください。

店長の残業代請求が認められた裁判例の紹介

以下では、店長の管理監督者性が否定され、残業代請求が認められた代表的な裁判例を紹介します。

レストランの店長の残業代請求が認められた事例|大阪地裁昭和61年7月30日判決(レストランビュッフェ事件)

【事案の概要】

原告は、ファミリーレストランで店長として勤務していた労働者です。

店長という肩書を持ちながらも、実際にはバーテンやコック業務、接客、レジ、清掃などの現場業務を広く担当していました。

勤務実態としては、営業時間中は店舗に拘束され、タイムレコーダーによって出退勤が管理されていました。

また、従業員の採用に一部関与していたものの、賃金などの労働条件は最終的に会社が決定しており、十分な決定権があるとはいえない状況でした。

このような中で、原告は1年間で合計約1420時間の時間外労働を行ったとして、未払い残業代の支払いを求めて提訴しました。

これに対し会社側は、「店長である以上、管理監督者に該当し、残業代の支払い義務はない」と主張しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、「管理監督者」に該当するかどうかは役職名ではなく実態によって判断すべきであるとしたうえで、原告はこれに該当しないと判断しました。

具体的には、
・労働時間について自由裁量がなく、営業時間中は拘束されていたこと
・タイムレコーダーにより出退勤が管理されていたこと
・業務内容が現場作業中心であり、管理業務は一部にとどまっていたこと
・人事や労働条件について最終的な決定権を有していなかったこと
・店長手当が少額で、待遇が十分とはいえないこと

などを総合的に考慮し、「経営者と一体的な立場にはない」と認定しました。

その結果、会社側の主張は退けられ、未払い残業代約80万円の支払いが命じられました。

【ポイント】

本判例からは、以下の点が重要であることが分かります。

・店長という肩書だけでは管理監督者とは認められない
・判断はあくまで「権限・労働時間の裁量・待遇」といった実態で行われる
・現場業務が中心で長時間拘束されている場合は、管理監督者性が否定されやすい

このように、店長であっても実態が伴っていなければ残業代請求は認められます。自身の働き方が本事例に近い場合には、請求できる可能性があるといえるでしょう。

ファーストフード店の店長の残業代請求が認められた事例|東京地裁平成20年1月28日判決(日本マクドナルド事件)

【事案の概要】

原告は、日本マクドナルドの直営店店長として勤務していた労働者です。

会社側は、店長について「管理監督者」に当たるとして、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払っていませんでした。

これに対し原告は、店長であっても実態は管理監督者ではないとして、未払いの時間外割増賃金・休日割増賃金や付加金などを請求しました。

具体的な状況としては、店長がアルバイト従業員の採用や昇給決定、勤務シフトの作成、店舗の売上計画や販売促進活動への関与など、一定の権限を有していた一方で、社員の採用権限や人事評価の最終決定権までは持っておらず、店舗運営も本社方針に大きく左右されていました。

また、営業時間帯にはシフトマネージャーを配置する必要があるため、人員不足の場合には店長自らがシフトに入り、長時間労働を余儀なくされる実態がありました。

【裁判所の判断】

裁判所は、管理監督者に該当するかどうかは店長という名称ではなく、実際の職務内容、権限、勤務態様、待遇などを総合的に見て判断すべきであるとしました。

そのうえで、店長には店舗内で一定の権限が認められるものの、その権限はあくまで店舗レベルにとどまり、企業全体の経営に経営者と一体的な立場で関与しているとはいえないと判断しました。

また、勤務態様についても、形式上は自らスケジュールを決められる部分があったものの、実際には人員不足の穴埋めとしてシフトマネージャー業務に入る必要があり、長時間労働を避けにくい状況にあったため、労働時間について十分な自由裁量があるとは認めませんでした。

さらに、待遇面でも、店長の年収は下位職であるファーストアシスタントマネージャーと比べて十分な差があるとはいえず、評価次第では年収が逆転することもあり得るなど、管理監督者にふさわしい優遇措置がされているとはいえないと判断しました。

その結果、裁判所は、原告は管理監督者には当たらないとして、未払い残業代約503万円と付加金約251万円の支払いを命じました。

【ポイント】

本判例のポイントは、以下のとおりです。

・店長であっても、権限が店舗内の事項に限られている場合は、管理監督者とは認められにくいこと
・形式上は勤務時間に裁量があるように見えても、実際には人員不足などにより長時間労働を余儀なくされている場合、自由裁量があるとはいえないこと
・賃金や賞与などの待遇が一般従業員より明確に優遇されていなければ、管理監督者性は否定されやすいこと

この判例は、「店長」という肩書だけで残業代が不要になるわけではなく、あくまで実態に即して判断されることを示した代表的な裁判例です。飲食店や小売店などで、店長でありながら現場業務や長時間労働に追われている方にとって、非常に重要な判例といえます。

名ばかり管理職の店長が残業代請求をする際の注意点

名ばかり管理職の店長が残業代請求をする際の注意点

店長が残業代請求を行う場合、「店長だから難しい」と思われがちですが、実態次第では十分に請求が認められる可能性があります。もっとも、請求を成功させるためには、事前に押さえておくべき注意点があります。ここでは、特に重要な2点を説明します。

証拠がなければ請求困難|残業代請求に必要な証拠を集める

残業代請求では、「どれだけ働いたのか」「本当に管理監督者ではなかったのか」を客観的に示す証拠が極めて重要です。

会社側が「店長は管理職だから残業代は不要」「その時間までは働いていない」と争ってきた場合、証拠が乏しいと請求が難しくなるおそれがあります。

特に店長のケースでは、単に労働時間を示すだけでなく、管理監督者に当たらないことを裏付ける資料も重要になります。たとえば、以下のような証拠が考えられます。

・タイムカード、勤怠システムの記録
・シフト表、勤務表
・業務日報や引継ぎノート
・メール、LINE、チャットなどの業務連絡
・入退館記録、防犯カメラ映像
・給与明細、雇用契約書、就業規則
・本部からの指示書、マニュアル、会議資料
・人事や売上決定について自分に裁量がないとわかる資料

たとえば、タイムカードやシフト表があれば労働時間の立証に役立ちますし、本部の承認がなければ採用や販促を決められない資料があれば、店長に十分な権限がなかったことの裏付けになります。

また、会社が証拠を持っているからといって安心はできません。退職後や請求後に、資料の開示がスムーズに進まないこともあるため、在職中からできる範囲で証拠を確保しておくことが大切です。

もっとも、会社の機密情報を無断で大量に持ち出すなど、方法によっては別のトラブルになりかねません。証拠収集の方法に不安がある場合は、早い段階で弁護士に相談した方がよいでしょう。

残業代の時効は3年|時効になる前に残業代を請求する

未払い残業代には時効があるため、放置すると古いものから順に請求できなくなってしまいます。そのため、「いつか請求しよう」と考えているうちに、大きな金額を失ってしまうケースも少なくありません。

店長は、長時間労働になりやすく、未払い残業代が高額になる傾向があります。月数十時間から100時間を超える残業が続いている場合、1か月ごとの未払い額は大きく、時効による影響も深刻です。特に、退職してから動こうと思っているうちに時間が経過し、請求できる範囲が狭まってしまうこともあります。

そのため、残業代請求を考えたら、できるだけ早く動き出すことが重要です。実際の対応としては、証拠を集めたうえで会社に請求したり、内容証明郵便を送るなどして時効完成を防ぐ措置を検討することになります。

また、時効が迫っているケースでは、まずは請求の意思を明確に示して権利を守ることが優先されます。金額の精査や交渉はその後でも進められる場合があるため、「証拠が十分にそろってから」と待ちすぎないことも大切です。

残業代請求をお考えの店長はグラディアトル法律事務所にご相談ください

残業代請求をお考えの店長はグラディアトル法律事務所にご相談ください

店長として働いている方の中には、「自分は管理職だから残業代は請求できないのではないか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。しかし、これまで解説してきたとおり、実際には名ばかり管理職に該当するケースも多く、適切な対応を行えば残業代が認められる可能性は十分にあります。

もっとも、残業代請求では、労働時間の立証や管理監督者性の判断など、専門的な知識や経験が必要となる場面が少なくありません。また、会社側が争ってくる場合には、法的根拠をもとに交渉や労働審判、訴訟まで見据えた対応が求められます。

グラディアトル法律事務所は、労働問題、とりわけ残業代請求に関する豊富な解決実績を有しており、店長やマネージャー職の方からのご相談にも数多く対応してきました。個別の事情に応じて、証拠収集のアドバイスから交渉・手続対応まで一貫してサポートいたします。

「自分が請求できるか知りたい」「どれくらい請求できるのか見込みを知りたい」といった段階でも問題ありません。まずは当事務所までお気軽にご相談ください。

まとめ

店長という肩書があっても、実態として経営者と一体的な立場にない場合は、「管理監督者」とは認められず、残業代請求が可能となるケースは少なくありません。特に、長時間労働が常態化している、権限が限定されている、待遇が見合っていないといった場合には、未払い残業代が発生している可能性があります。

重要なのは、働き方の実態を正しく把握し、証拠をもとに適切に請求を行うことです。迷った場合は一人で抱え込まず、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力。数多くの夜のトラブルを解決に導いてきた経験から初の著書「歌舞伎町弁護士」を小学館より出版。 youtubeやTikTokなどでもトラブルに関する解説動画を配信している。

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