「ホストでも残業代請求はできるの?」
「残業代請求できるホストとできないホストの判断基準を知りたい」
「残業代請求できる場合、どのような流れで残業代を請求すればいいの?」
ホストという職業は「個人事業主」「自由業」といったイメージが強く、残業代を請求できるとは考えにくいかもしれない。実際、ホストクラブでは歩合制を理由に「うちは残業代は出ない」と言われたり、「業務委託契約だから残業という概念がない」と説明されたりすることも多い。しかし、法的に見ればホストでも「労働者」に該当する場合には、未払い残業代を請求できる可能性がある。
残業代請求が認められるためには、「労働者性」があるかどうかが重要なポイントとなる。つまり、ホストが形式的に業務委託契約を結んでいても、実態として使用者の指揮命令のもとで働いていれば、「労働者」として保護される可能性があるのだ。
本記事では、
| ・ホストが残業代を請求するための条件や判断基準 ・ホストの残業代請求に関する過去の裁判例 ・ホストによる残業代請求の流れや注意点 |
などを詳しく解説する。
夜の世界だからといって泣き寝入りする必要はない。自分の権利を知り、正当な対価を得るための一歩を踏み出してほしい。
ホストという職業は、一般的に雇用契約ではなく、業務委託などの形式で契約されており、残業代の支払いがないことが通例となっている。しかし、それは法的に正当な扱いとは限らない。
労働基準法では、「労働者」に該当する者には残業代を支払う義務がある。ホストが形式上は業務委託契約で働いていたとしても、実態として使用者の指揮命令下にあるのであれば「労働者」として認められ、未払い残業代を請求できる余地があるのだ。
ホストクラブでの労働環境は、長時間労働が常態化していることも多く、本来支払われるべき残業代が無視されているケースも少なくない。水商売だからといって泣き寝入りする必要はない。まずは、自身が法的に「労働者」に該当するかを確認することが出発点である。

労働者性が認められるかどうかは、契約書の名称ではなく、実際の業務実態に基づいて判断される。以下にでは、「労働者性」を判断する際に重視される主なポイントを紹介する。
業務委託契約では、本来自らの裁量で仕事を選べる自由がある。一方、労働者であれば、業務の内容やタイミングについて使用者からの指示に従う義務がある。
ホストの場合、「出勤日は店側が決定している」「イベントや同伴営業に必ず参加するよう言われている」などの状況があれば、自由な働き方とは言えず、労働者性が認められる要素となる。
業務の遂行方法に関して、どの程度細かな指示があるかも重要な要素である。
たとえば、営業中のトーク内容や立ち振る舞い、客引き方法などについて事細かく店から指導されている場合は、指揮命令関係が存在すると判断されやすい。
また、ノルマの設定や売上目標の達成を強く求められていた場合にも、労働者性を裏付ける材料となる。
自由業者であれば、基本的に自分の働く時間や場所を自ら決定できる。
しかし、ホストクラブの多くでは、出勤時間や出勤日が明確に決められており、遅刻や無断欠勤に対してペナルティが課せられることもある。
このような勤務実態がある場合、実質的に雇用されていると認定される可能性が高い。
業務委託契約であれば、自身の代わりに第三者へ業務を任せることができるが、労働者はそういった自由は基本的に認められていない。
ホストの業務を他のホストが代行することができない場合、つまり代理人を立てることができないのであれば、使用従属性の一つとされ、労働者性が肯定されやすい。
報酬が売上に応じた完全歩合制であっても、それが使用者の指揮命令下で働いた結果として支払われているのであれば、労働者性があると判断される場合がある。
また、時給や日給、最低保証額が存在する場合は、さらに労働者性を強める要素となる。
労働保険(雇用保険や労災保険)への加入の有無、給与明細の交付の有無、勤怠管理の有無なども労働者性を判断するうえでの補助的要素となる。
労働者性の判断基準は、上記のとおりですが、それだけではどのような場合に労働者性が認められるのか判断できないという方もいると思います。そのような方に向けて、労働者性の簡単なチェックリストを作成しましたので、ご確認ください。
該当する要素が多ければ多いほど労働者性が認めらえる可能性が高くなりますので、複数項目該当する方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
| 労働者性の判断基準 | チェック欄 |
|---|---|
| 仕事の依頼や業務指示を断ることができない 【例】・出勤日や出勤時間は店が決めている ・イベント、同伴、アフター参加が義務化されている/強く求められる ・休みの取得に店の許可が必須 | □ |
| 業務内容や進め方について細かく指示を受けている 【例】・営業中のトーク内容、立ち振る舞い、客引き方法まで細かく指導される ・売上ノルマ、目標が課され、未達成に罰則/罰金がある ・具体的な営業手順、マニュアルに従うことが求められる | □ |
| 働く場所が指定されている | □ |
| 始業時刻と終業時刻が指定されている | □ |
| 就業時間はタイムカードなどにより管理されている | □ |
| 報酬が時給で計算されている | □ |
| 遅刻、早退、欠勤があると報酬が控除される | □ |
| 残業をすると残業手当が支払われる | □ |
| 業務で用いる名刺、衣装、携帯電話などはホストクラブ側が用意している | □ |
| 報酬に固定給部分がある | □ |
| 報酬が給与所得として源泉徴収がされている | □ |
| 労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金に加入している | □ |
| 職場の服務規律が適用されている | □ |
| 退職金やその他の福利厚生を受けることができる | □ |
この事案は、ホストクラブで勤務していた原告が店側との契約が労働契約にあたるとして、未払賃金や不当解雇に基づく損害賠償を請求した事案である。
裁判所は、以下のような事情を重視し、ホストである原告が「労働者」に該当すると判断した。
| ・原告は、店側からの接客指示を断ったことがなく、他ホストの補助(ヘルプ)としての接客も行っていた |
| ・勤務時にはタイムカードを打刻し、遅刻すると罰金が科されていた |
| ・給与から所得税が源泉徴収されていた |
これらの点から、裁判所は、原告が店からの指揮命令のもとに労務を提供していたと認定し、実質的に雇用関係が成立していたと判断した。
また、店側が「売掛金が未回収であるから賃金は払えない」と主張していた点についても、裁判所はこれを明確に否定し、「顧客からの代金未回収という事業リスクを、労働者に一方的に転嫁するのは公序良俗に反し無効である」とした。
この裁判例は、ホストという業種であっても、実態として指揮命令関係のもとで働いていれば「労働者」と認められ、未払賃金の請求が可能であることを示す判例である。特に、給与形態が歩合制や業務委託であっても、その形式だけではなく、実態を重視して労働者性が判断される点が注目される。

この事案は、ホストとして長年勤務していた原告が自らを「労働者」であるとして、未払賃金や旅行積立金の返還を求めた事案である。被告側はこれに対し、ホストは雇用契約に基づく労働者ではなく、自営業者にすぎないと反論した。
裁判所は、労働者性の有無を判断するにあたり、ホストの報酬体系や働き方の実態、店舗との関係性などを総合的に検討し、以下の事実を認定した。
| ・ホストの報酬は、売上に応じて支払われる出来高制であり、固定給はなく、勤務時間と報酬の直接的な関係性は乏しかった |
| ・出勤時間も客の都合に応じて柔軟に決められており、午後5時以降に出勤する場合もあれば、指名客に合わせて午後10時に外出することもあった |
| ・ホストは接客に必要な衣装やプレゼント代を自己負担しており、昼間に別の仕事をすることも自由であった。 |
| ・ホストは「源氏名」を用いて営業活動を行い、店舗側からの明確な指揮命令の存在は認められなかった |
| ・報酬には家族手当や交通費もなく、社会保険料の控除もなされておらず、店舗の「内勤」と呼ばれる従業員とは完全に別体系で給与が管理されていた |
このような事情から、裁判所は、「ホストは被告から指揮命令を受ける関係にはなかった」「各ホストが自己の営業努力により収入を得ていたにすぎない」として、労働者性を否定。ホストは自営業者にあたり、雇用契約は存在しないと判断した。
この裁判例は、ホスト業務が自由度の高い営業活動に基づくものであれば、労働者性が否定されうることを示すものである。ホストクラブに勤務しているからといって、すべての場合に労働者性が認められるわけではなく、残業代請求が可能かどうかは、個別具体的な勤務実態に応じて慎重に判断する必要がある。

労働者性が認められるホストは、以下のような流れで残業代請求を行うことができる。
残業代請求においてもっとも重要なのが「証拠」である。
まずは、出勤記録、シフト表、LINEやメールでの店側からの指示、タイムカードの写真、日報やメモなど働いた時間や店からの指示を証明できる資料を集めなければならない。
証拠がなければ残業代を支払ってもらうのは困難であるため、普段から記録を残しておくことが望ましい。
未払い残業代の証拠を確保したら、次は未払い残業代の金額を計算する。
日給や月給、歩合給で働くホストの場合、まずは1時間あたりの基礎賃金を計算し、それに以下の割増賃金率を掛けて残業代の計算をすることになる。
| 労働の種類 | 内容 | 割増賃金率 |
|---|---|---|
| 時間外労働 | 法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えたとき | 25%以上 |
| 時間外労働が1か月60時間を超えたとき | 50%以上 | |
| 休日労働 | 法定休日(週1日)に労働したとき | 35%以上 |
| 深夜労働 | 午後10時から翌午前5時までの間に労働したとき | 25%以上 |
| 深夜残業 | 深夜時間帯(午後10時~翌午前5時)に残業をしたとき | 50%以上 |
残業代計算は、非常に複雑であるため自分で対応するのではなく、専門家である弁護士に任せた方が安心だ。
証拠の準備と残業代計算ができたら、内容証明郵便により正式に残業代の支払いを請求する。これは後の労働審判や訴訟に備えて、請求の意思表示を証拠として残す意味もあるため、口頭ではなく内容証明郵便を利用するようにすべきである。
内容証明を送付後、ホストクラブ側が任意に支払ってくるケースもあれば、争ってくる場合もある。まずはホストクラブ側の対応を見極めて、今後の交渉を進めていくことが重要である。
なお、ホスト個人で対応するよりも弁護士を代理人として立てた方が、相手の対応も変わりやすく、交渉の主導権を握ることができるためおすすめである。
交渉での解決が難しい場合には、労働審判や訴訟を起こすことになる。労働審判は、比較的スピーディに結論が出る手続きであり、迅速な解決を希望するのであればおすすめの手続きである。
審判での解決が難しければ、通常訴訟へと移行する。訴訟手続きは、専門的かつ複雑な手続きであるため、弁護士に任せた方が安心である。

ホストが残業代請求を検討する際には、いくつかの重要な注意点がある。以下では、残業代請求を行ううえで押さえておくべき3つのポイントを説明する。
ホストが残業代を請求するには、自分が法律上の「労働者」に該当するかどうかを判断しなければならない。しかしこの判断は、法的知識がなければ正確な判断は困難である。
特に、ホスト業界特有の勤務形態(シフト管理、指名制度、罰金制度など)は、一般的な雇用と異なる面が多く、表面的な契約書の文言だけで判断するのは危険である。
自分が請求できる立場にあるのかどうかについては、まずはナイトビジネスに詳しい弁護士に相談することが安全で確実な方法である。
残業代の請求には、原則として「3年」の消滅時効がある。これにより過去3年分までは請求可能であるが、それ以前の分については原則として請求できない。
そのため、「いつか請求しよう」と先延ばしにしていると、請求できる期間がどんどん短くなってしまう。少しでも疑問や不安を感じたら、証拠の保存とともに早期に専門家へ相談することが大切である。
ホストクラブに在籍中の状態で残業代を請求することに抵抗を感じる人も多い。店との関係が悪化したり、居づらくなったりするのではないかという不安から、請求をためらうケースがある。
しかし、残業代は退職後でも請求することができる。むしろ、退職後であれば精神的なプレッシャーから解放されて自由に動けるため、交渉や法的手続きも進めやすい。在職中の残業代請求によるリスクを避けたい場合は、退職してから証拠を整理し、時効が成立する前に請求するという選択肢も十分検討に値するだろう。

ホストの残業代請求は、単なる法律論だけでなく、ナイトビジネス特有の実態を踏まえた対応が不可欠である。勤務形態や報酬制度が一般の業種とは大きく異なるため、形式上は業務委託契約であっても、実際には「労働者」としての保護が受けられるケースも多い。だが、その判断には業界知識と労働法の専門性が求められます。
グラディアトル法律事務所は、ホストやキャバクラなどナイトビジネスに従事する方々の権利回復に注力してきた実績豊富な法律事務所である。ホストクラブに勤務する方からの相談件数も多く、これまでに労働者性の認定や残業代請求に関する交渉・訴訟を数多く手がけてきています。
「店との関係が悪くなりそう」「売掛金のこともあって言い出しにくい」といった不安を抱える方にも、弁護士が一貫して対応し、交渉から訴訟まで対応するので、安心して任せることができる。初回相談は無料で行っているため、「これって請求できるのかな?」という段階でも遠慮なく問い合わせてほしい。
泣き寝入りする前に、専門家のアドバイスを受けることで、自分の正当な権利を守る道が開けるはずである。
ホストという職業であっても、実態として使用者の指揮命令下にあり、勤務時間が拘束され、業務に自由がない場合には「労働者」として残業代を請求できる可能性がある。
ただし、労働者性の有無は、個別具体的な事情に基づいて判断されるため、自己判断で諦めるのではなく、専門家に相談してみることが重要である。
水商売だからといって権利を放棄する必要はない。残業代請求を検討中のホストの方は、ぜひグラディアトル法律事務所まで相談してもらいたい。
