ダブルワークの残業代の基本的な考え方|請求先や注意点を解説

ダブルワークの残業代の基本的な考え方
弁護士 若林翔
2024年04月03日更新

「副業が解禁されたため、ダブルワークで収入を増やしたい」

「ダブルワークの労働時間はどのように計算するの?」

「ダブルワークはどちらの会社に残業代を計算するの?」

働き方改革により副業が認められる会社も増えてきました。

労働者としても余った時間や自分の能力を活用して収入を増やすことができますので、ダブルワークを検討している方も多いでしょう。

しかし、ダブルワークは、複数の職場で働くことになりますので、労働時間や残業代の考え方が1つの職場で働く場合とは異なります。

ダブルワークで収入を増やそうとしているにもかかわらず、残業代の請求で損をすることがないようにするためにも、ダブルワークの残業代に関する基本を押さえておくことが大切です。

本記事では、

・ダブルワークの労働時間の基本的な考え方

・ダブルワークの残業代の請求先

・ダブルワークでの残業代の計算方法

などについてわかりやすく解説します。

残業代には時効がありますので、残業代の未払いが判明したときは、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

 

ダブルワークの労働時間の基本的な考え方|労働時間は通算する

ダブルワークの残業代の考え方は労働時間は通算する

労働基準法38条1項では、「事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定められています。

すなわち、ダブルワークにより、本業と副業で別々の会社で働いているとしても、本業と副業の労働時間は通算されることになります。

たとえば、本業のA社で8時間働き、副業のB社で2時間働いたとすると、この労働者の1日の労働時間は、通算により10時間ということになります。

労働基準法では、1日8時間・1週40時間という法定労働時間を定めており、法定労働時間を超えた時間外労働に対しては、残業代(割増賃金)の支払いが必要になります。

ダブルワークでは、複数の職場で働く結果、時間外労働が発生する可能性が高くなりますので、きちんと残業代を請求してくことが重要です。

 

ダブルワークの残業代の請求先|本業と副業のどちらに請求する?

ダブルワークの残業代は本業と副業のどちらに請求する?

ダブルワークで1日および1週の労働時間が法定労働時間を超えてしまった場合、本業と副業のどちらの職場に残業代を請求すればよいのでしょうか。以下では、ダブルワークにおける残業代の請求先について説明します。

 

原則|副業の会社に請求する

ダブルワークの残業代は、原則として、後から労働契約を締結した会社に対して請求します(厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」 Q&A参照)。

なぜなら、後から労働契約を締結した会社は、当該労働者が通算により法定労働時間を超えることを認識した上で働かせているといえるからです。

そのため、ダブルワークの場合、基本的には、本業の会社ではなく副業の会社に対して、残業代を請求していくことになります。

 

【副業の会社に請求する際の具体例】

厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」 Q&A掲載の具体例に沿って、実際のダブルワークの残業代を副業の会社に請求する際の残業代計算方法を解説します。

 

【具体例①】

厚生労働省ガイドライン 副業の時間外労働賃金の請求先

本業の甲社において所定労働時間を8時間とする労働契約を締結している労働者が新たに副業の乙社において所定労働時間を5時間とする労働契約を締結したとします。

ある日の労働時間が甲社で8時間、乙社で5時間の合計13時間になったとすると、1日の法定労働時間8時間を超えた5時間分が残業となります。この場合には、後から契約した乙社に対して、5時間分の残業代を請求していきます。

 


【具体例②】

厚生労働省ガイドラインより時間外労働による賃金の請求先の例

本業の甲社において所定労働日を月曜日から金曜日、所定労働時間を8時間とする労働契約を締結している労働者が新たに副業の乙社において、所定労働日を土曜日、所定労働時間を5時間とする労働契約を締結したとします。

1日あたりの労働時間は、甲社と乙社のいずれも法定労働時間である8時間内になっています。しかし、1週間の労働時間は45時間となり、週の法定労働時間40時間を超えていますので、5時間分が残業となります。この場合には、後から契約した乙社に対して、5時間分の残業代を請求していきます。

 

例外①|本業の会社に請求する

原則として、後から契約した副業の会社が残業代を支払うことになりますが、例外的に本業の会社が残業代を支払わなければならないケースもあります。

それは、本業の会社が法定労働時間を超過すると認識しながら労働者を働かせたような場合です。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

【具体例】

厚生労働省ガイドライン副業兼業の時間外労働賃金の請求先

本業の甲社において所定労働時間を4時間とする労働契約を締結している労働者が新たに副業の乙社において所定労働時間を4時間とする労働契約を締結したとします。

甲社と乙社において、所定労働時間どおりに働いた場合には、法定労働時間の範囲におさまりますので、残業代が発生することはありません。

しかし、ある日に甲社での仕事が長引き、5時間働いたとすると、その日は乙社の4時間と合わせると合計9時間の労働となります。原則でいえば、後から契約した乙社が残業代を支払うことになりますが、法定労働時間に収まるように契約した乙社に対して、甲社での残業代を負担させるのは酷な結果になります。

そのため、このケースでは、乙社の所定労働時間と合わせれば法定労働時間を超えることを認識しながら、残業をさせたA社が残業代を支払わなければなりません。

 

例外②|本業および副業の会社双方に請求する

本業の会社と副業の会社の双方が法定労働時間を超過すると認識しながら労働者を働かせたような場合には、例外的に本業および副業の会社の双方に対して残業代を請求することができます。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

【具体例】

厚生労働省ガイドライン副業での時間外労働の賃金の請求先

本業の甲社において所定労働時間を4時間とする労働契約を締結している労働者が新たに副業の乙社において所定労働時間を4時間とする労働契約を締結したとします。

ある日に甲社において6時間、乙社において5時間働いたとすると、その日は合計11時間の労働となります。甲社では、所定労働時間を2時間超過することで法定労働時間を超えることを認識しており、甲社では、所定労働時間を1時間超過することで法定労働時間を超えることを認識しています。

そのため、このケースでは、甲社に対して2時間分乙社に対して1時間分の残業代を請求することができます。



ダブルワークでの残業代の計算方法

ダブルワークの残業代の計算方法

ダブルワークでは、労働時間の通算が必要になりますが基本的な残業代の計算方法は、一般的な方法と変わりありません。具体的には、以下のような計算式によって残業代の計算を行います。

1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間

そのため、正確に残業代を計算するためには、残業代の計算式に含まれる各項目を正確に理解している必要があります。以下では、各項目の内容を説明しますが、とても複雑な内容になりますので、残業代計算は、専門家である弁護士に任せるのがおすすめです。

 

1時間あたりの基礎賃金

一般的な月給制の場合には、以下のような計算方法で1時間あたりの基礎賃金を算出します。

1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間

1か月の平均所定労働時間=1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12か月

なお、上記の計算式に含まれる月給は、基本給に各種手当を含めて金額になりますが、以下のような手当については除外しなければなりません。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 住宅手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

割増賃金率

残業をした場合には割増賃金の支払いが必要にありますが、残業をした時間に応じて、以下のように割増賃金率が異なっています。

  • 時間外労働:25%以上
  • 深夜労働:25%以上
  • 休日労働:35%以上
  • 月60時間を超える時間外労働:50%以上

なお、各時間帯の割増率は、重複して適用されることがあります。たとえば、深夜時間帯に時間外労働をした場合には「25%+25%=50%以上」の割増賃金率が適用されます。

 

残業時間

ダブルワークでの残業時間を考えるにあたっては、本業と副業の労働時間の通算が必要になる点に注意が必要です。

本業と副業それぞれ単体では、法定労働時間の範囲におさまっているように見えても、それぞれを合算することによって法定労働時間を超過する可能性も十分にあります。

労働時間の合算を間違えると、本来もらえるはずの残業代がもらえないおそれもあります。自分で計算するのは不安だという方は、まずは弁護士にご相談ください。

残業代の計算方法の詳細については、以下の記事もご参照ください。

【残業代を計算したい人へ】60時間超・深夜手当・休日手当までわかる

 

ダブルワークの残業代の計算例

【本業A社での基本情報】

  • 基本給:月給30万円(簡略化のため手当なし)
  • 所定労働時間:1日8時間
  • 年間休日:125日

【副業B社での基本情報】

  • 基本給:時給1500円
  • 所定労働時間:1日4時間

ある日にA社において10時間、B社において4時間働いたとすると、労働時間の合計は14時間になります。この場合、A社に対して2時間分の残業代を、B社に対して4時間分の残業代を請求していくことになります。

B社では、「時給=1時間あたりの基礎賃金」になりますが、A社では月給制のため、1時間あたりの基礎賃金を計算しなければなりません。具体的な計算は、以下のようになります。

1時間あたりの基礎賃金=30万円÷{(365日-125日)×8時間÷12か月}=1875円

よって、A社に対しては、「1875円×125%×2時間≒4688円」、B社に対しては、「1500円×125%×4時間=7500円」の残業代を請求することができます。

 

ダブルワークの残業代に関して注意すべきポイント

ダブルワークの残業代に関しての注意点

ダブルワークで働く方の残業代に関しては、以下の点に注意が必要です。

 

本業・副業の会社の双方でダブルワークの許可を得る

ダブルワークをする際には、本業と副業の会社の双方でダブルワークの許可を得るようにしましょう。

これは、単に会社に無断でダブルワークをしないという意味だけではありません。

ダブルワークの労働時間は、通算で計算することになりますので、本業および副業の会社では、自社以外の会社でどのような条件で働いているのかが重要になります。

他社の所定労働時間などを把握していなければ、残業代の計算が困難になりますので、スムーズな残業代請求のためにも、ダブルワークをしていることは会社にきちんと伝えるようにしましょう。

 

本業で有給休暇を取得したときには残業代は発生しない

本業で有給休暇を取得した場合、特定の労働日について、実際に働いていないにもかかわらず、賃金の支払いを受けることができます。本業を有給休暇により休んでいる間に、副業で働くことも可能ですが、この場合には、本業での労働時間は0時間になります。

そのため、副業での労働時間が法定労働時間の8時間におさまっている限り、副業の会社では残業代は発生しません。

 

副業の働き方によっては労働時間が通算されない

労働時間の通算の考え方が適用されるのは、本業および副業の双方で労働者として働いている場合に限られます。

ダブルワークでは、雇用という形式にとらわれずに、個人事業主として業務委託契約により働くことも増えてきています。形式だけではなく実態も業務委託契約であるといえる場合には、副業では労働基準法が適用されませんので、労働時間が通算されることもありません

ただし、労働者か個人事業主であるかどうかは、形式ではなく実態に即して判断しますので、どちらに該当するか判断に迷うときは弁護士に相談してみるとよいでしょう。

 

本業で管理監督者にあたるときは労働時間が通算されない

管理監督者とは、労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある人のことをいいます。労働基準法が定める管理監督者に該当する場合には、労働基準法上の労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外されます。

そのため、本業で管理監督者にあたるときには、労働時間が通算されませんので、副業先での残業代の考え方が変わる点に注意が必要です。

もっとも、管理職であっても管理監督者に該当しないケースも多いです。管理職と残業代の詳細は、以下の記事をご参照ください。

「管理職の残業代は出ない」は間違い!違法なケースや請求方法を解説

 

ダブルワークの残業代でお困りの方はグラディアトル法律事務所に相談を

ダブルワークの残業代でお困りの方はグラディアトルへ

ダブルワークの残業代でお困りの方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。

 

ダブルワークの残業代の考え方をアドバイスできる

ダブルワークの残業代の計算は、労働時間の通算が必要になるため、一般的な残業代計算よりも複雑な計算になります。一般の方では、正確に未払い残業代の計算をするのが難しいケースも多いため、自分だけで対応すると計算ミスなどにより本来もらえるはずの残業代がもらえない可能性もあります。

弁護士であれば、ダブルワークであっても迅速かつ正確に残業代を計算することが可能です。グラディアトル法律事務所には、労働問題に関する経験豊富な弁護士が多数在籍していますので、ダブルワークの事案であっても適切に対応することができます。

 

未払いの残業代がある場合には対応を任せることができる

残業代計算の結果、未払い残業代があることが判明した場合、会社に対して、未払い残業代の請求を行っていきます。まずは会社との交渉により支払いを求めていきますが、会社が任意に応じてくれないときは、労働審判や裁判による対応が必要になるケースもあります。

労働者個人では、会社がまともに取り合ってくれなかったり、不利な条件での示談を持ちかけられるおそれがあります。また、不慣れな方では、労働審判や裁判などの法的対応は困難です。

グラディアトル法律事務所では、未払い残業代の問題を豊富に取り扱っており、労働審判や裁判による解決事績も多くあります。当事務所にお任せいただければ、未払い残業代の問題を適切に解決に導くことができますので、どうぞ安心してお任せください。

 

丁寧かつ明確に弁護士費用を提示するため不安なく依頼できる

弁護士に未払い残業代請求を依頼する際に不安になるのが、弁護士に費用の問題です。多くの方が初めて弁護士に依頼することになりますので、「高額な弁護士費用を請求されるのではないか心配」などの不安を抱くこともあるでしょう。

しかし、グラディアトル法律事務所では、多くの労働者の方に安心して相談にお越しいただけるようにするために、初回法律相談を無料で対応しています。また、相談時には、担当した弁護士から実際にかかる弁護士費用を丁寧かつ明確に説明しますので、不安なく弁護士に依頼することができます。

 

6 まとめ

働き方改革により副業を解禁する企業も増えてきていますので、ダブルワークを始めている労働者の方もいると思います。しかし、ダブルワークでは労働時間の通算が必要になるなど、残業代の計算が複雑になっていますので、未払いの残業代が発生している可能性もあります。

残業代請求には、時効という期間制限がありますので、未払い残業代が存在する疑いがあるときは、早めにグラディアトル法律事務所までご相談ください。

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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