看護師にも残業代は出る!残業が多い原因や未払い残業代の請求方法

看護師の残業代の請求方法
弁護士 若林翔
2024年04月07日更新

「看護師として働いているけれど、残業が多いのにきちんと残業代が支払われていない」

「緊急対応などのサービス残業が多くて悩んでいる」

「看護師でも未払い残業代を請求できるの?」

看護師の仕事は、日常的な業務量が多いだけではなく、患者の容態によっては勤務時間外でも緊急な対応が必要になることが多いです。病院によっては、そのような緊急対応の時間について残業代が支払われていないこともあるため、不満を抱いている看護師の方も少なくありません。

しかし、看護師も、実際に働いた残業時間に対する残業代を請求する権利がありますので、未払いの残業代がある場合には、病院に対して、しっかりと請求していくことが大切です。

本記事では、

  • 看護師に残業が多くなる4つの原因
  • 残業代請求の対象になる看護師の労働時間と病院側のよくやる手口・反論
  • 看護師が未払い残業代を病院に請求する方法

についてわかりやすく解説します。

「看護師だから残業代が出ないのは当たり前」などと諦めずに、まずは正しい知識を身につけましょう。

 

看護師でも残業代請求ができる!

 

日本医療労働組合連合会の「2022年看護職員の労働実態調査」によると、看護師の残業状況は、以下のようになっています。

サービス残業をしている割合と時間外労働時間の割合

  • サービス残業を行っている看護師が約7割
  • 1か月の時間外労働は、5時間以上が64.1%、20時間以上が19.4%、30時間以上が9.0%、50時間以上が1.5%、過労死ラインといわれる60時間以上が0.7%

 

このように多くの看護師が毎月残業をしており、そのほとんどがサービス残業であることがわかります。しかし、看護師も労働基準法が適用される「労働者」に該当しますので、残業をした場合には、残業時間に応じた残業代を請求することができます。

残業をしても残業代を支払ってもらえないという状況は、労働基準法に違反する違法な状況ですので、しっかりと改善を求めるとともに、病院に対して未払い残業代を請求していくことが大切です。

 

看護師に残業が多くなる4つの原因

看護師に残業が多くなる4つの原因

看護師に残業が多いのは、主に以下の4つの原因が考えられます。

慢性的な看護師不足

社会全体の高齢化に伴い、年々看護師の需要が増えてきているものの、それに見合う看護師の数が確保できているとはいえません。不規則な勤務形態や過酷な労働環境などから看護師の離職率も高いため、病院では慢性的な看護師不足の状況が続いています。

看護師の数が足りない病院では、当然看護師一人当たりの負担が増えることになりますので、残業も多くなります。

 

急患やナースコール対応

看護師は、日常的な業務以外にも容体が急変した患者の対応や緊急の入院患者の受け入れ、ナースコールの対応なども行わなければなりません。このような緊急対応中は、通常の業務の処理を中断せざるを得ませんので、残業をして通常の業務を処理しなければなりません。

人の命を預かる職場という性質上やむを得ない部分もありますが、このような緊急対応の多さも看護師に残業が多いといわれる理由の一つです。

 

看護記録などの書類作成業務

看護師は、看護業務だけではなく看護記録などの書類作成業務も行わなければなりません。就業時間中に看護記録の作成ができればよいですが、多くの病院では、看護記録の作成は終業後に作成するのが当たり前になっているようです。

このような看護記録の作成時間は、労働時間とはカウントされない職場が多いため、やむなくサービス残業を行っている看護師も多いです。

 

研修や勉強会への参加

看護師としてのスキルアップのため、院内研修や勉強会に参加することがあります。自主的に参加するものであれば、残業とはいえませんが、病院から参加が強制されているにもかかわらず、残業代が支払われないものもあるようです。

終業時間後に研修や勉強会に参加することになれば、必然的に残業時間も増えてしまいます。

 

残業代請求の対象になる看護師の労働時間とは?|病院側のよくやる手口・反論

看護師の残業代の対象となる労働時間

病院によっては、さまざまな理由により看護師が残業をしても残業代が支払われないことがあります。以下では、看護師特有の残業に関する問題とそれに対する病院側のよくある手口・反論を紹介します。

 

前残業と呼ばれる始業前の時間外労働

看護業界では、前残業と呼ばれる始業前の時間外労働が当たり前になっています。前残業とは、終業開始前に出勤して、情報収集や引き継ぎなどを行うことをいいます。

このような前残業が労働時間に含まれるかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれていると評価できるかどうかによって判断します。

たとえば、病院から始業開始の1時間前には出勤するよう指示されているようなケースであれば、使用者の指揮命令下に置かれていると評価できますので、前残業の時間に相当する残業代を請求することができます。

病院側から「前残業をするよう指示はしていない」などの反論が出るかもしれませんが、始業時間前に出勤するのが常態化しており、そのような状況を病院側も黙認しているようであれば、黙示の指示があったといえ、残業代の請求は可能です。

 

休憩中の看護対応

労働基準法上の休憩時間とは、労働から完全に解放されている時間のことをいいます。

看護師は、休憩時間中であっても急患やナースコールの対応をしなければならないことがあります。病院側から休憩時間中でも急患対応をするように指示があった場合には、実際に急患対応がなかったとしても、労働から完全に解放されたとはいえませんので、労働時間に該当します。

病院側からは、「人手不足だから仕方ない」、「患者の命を預かっているのだから当然だ」などと反論されるかもしれませんが、そのような理由であったとしても残業代の支払いを免れることはできません。

 

終業時間後の申し送り

看護師の勤務形態は、病院によって異なりますが、入院施設があるような病院では、2交代制または3交代制の勤務形態になっていることが多いです。このような交代勤務がある場合には、次の担当看護師に対し、患者の状況などを伝える申し送りが必要になります。

勤務時間内に申し送りが終わればよいですが、状況によっては終業時間後に申し送りを行わなければならないことがあります。このような申し送りの時間も労働時間に含まれますので、終業時間後の申し送りに対しては、残業代の支払いが必要になります。

病院側からは、「申し送りが遅れたのは、看護師本人の能力不足だ」、「申し送りが必要という指示は出していない」などの反論が考えられます。しかし、実際に看護師の能力不足により残業が発生したとしても、病院には残業代の支払い義務が生じます。また、申し送りを指示していなかったとしても、申し送りがなければ交代制勤務において円滑な業務遂行が困難であれば、労働時間として認められる可能性が高いです。

 

業務時間外の研修や勉強会

医療技術や看護技術は、日々進歩していますので、看護師は、研修や勉強会に参加して最新の技術や知識を身につけることが求められています。

勤務時間内だと看護業務に支障が出てしまうため、業務時間外に研修や勉強会に参加する看護師が多いです。このような研修や勉強会への参加が病院側から義務付けられている場合には、労働時間にあたり、残業代を請求することができます。

病院側からは、「看護師が任意に参加したものだから残業代は支払わない」などの反論が考えられます。しかし、自由参加とされているものの、参加しなければ勤務評定において不利益を受けるような場合には、実質的に強制されているのと変わりありませんので、残業代を請求できる可能性があります。

 

持ち帰り残業

看護師によっては、通常の看護業務や急患対応などに追われて、研修準備や勤務計画表の作成などの事務作業を自宅に持ち帰って行うこともあるでしょう。このような持ち帰り残業も、病院側から指示によりなされている場合には、労働時間に含まれますので、残業代を請求することができます。

病院側からは「持ち帰り残業の指示は出していない」などの反論が考えられます。しかし、明確な指示がなかったとしても、持ち帰り残業をしなければ到底終わらないような業務が与えられていた、持ち帰り残業を黙認していたという状況があれば、残業代を請求できる可能性があります。

 

緊急時の看護対応

終業時間直前に患者の容体が急変した場合には、そのまま看護対応を続けた結果、時間外労働となることがあります。このような緊急時の看護対応は、当然労働時間に含まれますので、病院側に対して残業代を請求することができます。

病院側からは、「看護師が勝手に対応したのだから残業代は支払わない」などの反論が考えられます。しかし、看護師としての本来の業務を行ったのですから、それに対して残業代を支払わなければならないのは当然の義務です。そのため、このような反論は無視して残業代請求を行いましょう。

 

看護師が未払い残業代を病院に請求する方法

看護師が未払い残業代を病院に請求する方法

看護師が病院に対して、未払い残業代を請求するには、以下のような方法で行います。

 

残業代の証拠を集める

看護師が未払い残業代を請求するためには、看護師の側で残業があったことを証拠により立証していかなければなりません。証拠がない状態で病院に請求したとしても、未払い残業代の支払いに応じてもらうのは困難ですので、まずは、残業に関する証拠を集めます。

看護師の残業を立証するための証拠としては、主に、以下のようなものが考えられます。

  • タイムカード
  • 勤怠管理記録のデータ
  • カルテ
  • 看護記録

これらの証拠は、病院を退職してからでは集めるのが難しくなりますので、退職前にしっかりと集めておくことが大切です。

タイムカード以外の残業代の証拠については、以下の記事もご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

 

未払いの残業代を計算する

看護師の残業代の計算は、一般的な労働者と同様に以下のような計算式によって行います。

1時間あたりの基礎賃金(月給÷月平均所定労働時間)×割増賃金率×残業時間

たとえば、以下の例で看護師の残業代がいくらになるのか実際に計算してみましょう。

看護師の残業代計算の例

この看護師の1か月の残業代は、

また、1か月の深夜手当は、

となり、合計7万1875円を請求することができます。サービス残業により適正な残業代が支払われていない場合には、過去3年分遡って請求できますので、この事案では約260万円もの残業代が発生していることになります。

残業代計算方法の詳細は、以下の記事をご参照ください。

【残業代を計算したい人へ】60時間超・深夜手当・休日手当までわかる

 

病院に直接請求する

未払い残業代の金額が明らかになったら、病院に直接残業代の請求を行います。

残業代請求には時効がありますので、催告よる時効の完成猶予があったことを明らかにするためにも、残業代請求は配達証明付き内容証明郵便により行うのが一般的です。

しかし、看護師が個人で病院に残業代を請求したとしても、まともに取り合ってくれないこともあります。そのような場合には、以下のようなところに相談してみるとよいでしょう。

 

労働基準監督署に相談する

病院と交渉をしても残業代の支払いに応じてくれないときは、労働基準監督署に相談するという方法もあります。労働基準監督者は、企業が労働関係法令を遵守しているかどうか監督する行政機関ですので、残業代の未払いが確認できれば、指導や是正勧告を行ってくれます。

ただし、労働基準監督署による指導や勧告には強制力がありませんので、病院が任意に従わない場合には、残業代の支払いは期待できません。

 

弁護士に相談する

病院が残業代の支払いに応じてくれないときは、弁護士に相談することも有効な手段といえます。

弁護士に相談・依頼をすれば、残業代請求に必要となる証拠収集や複雑な残業代計算をサポートしてくれますので、残業代請求の負担を大幅に軽減することができます。また、看護師に代わって病院との交渉や労働審判・訴訟対応を行ってくれますので、安心して任せることができます。

看護師個人で病院を相手に争っていけるか不安だという方は、まずは弁護士にご相談ください。

 

看護師の残業代請求を認めた裁判例

看護師の残業代を身っとめた裁判例

以下では、看護師の残業代請求を認めた裁判例を紹介します。

 

前残業が常態化していた看護師の残業代請求を認めた事例|さいたま地裁令和4年7月29日判決

【事案の概要】

始業時刻から業務を開始したのでは、終業時刻までの業務を終えることができない状況であったことから、始業時刻よりも前から業務に着手(前残業)を行っていました。看護師は、前残業をしていたことをナースステーションのパソコンのログイン時刻から立証して、病院に対して、約372万円の残業代請求を行いました。

 

【裁判所の判断】

裁判所は、始業時刻よりも前に看護師がパソコンを利用していることを上長である看護師長らが把握しており、それに対して、前残業を禁止したり、やめるよう指導をしていないことから、前残業は病院の指揮命令下において行われたものであると認定しました。

その結果、パソコンのログイン時刻から算定した看護師の残業代請求を認め、病院側に残業代として約42万円の支払いを命じました。

 

看護師のオンコールを労働時間と認めた事例|横浜地裁令和3年2月18日判決

【事案の概要】

この事案は、居宅介護サービス事業を営む会社に勤めていた看護師が緊急対応業務のための待機時間も労働時間に含まれるとして未払い残業代約1100万円を請求した事案です。

看護師は、勤務時間外でも携帯電話を所持し、勤務先からの呼び出しがあれば直ちに応答して対応しなければなりませんでした。このような「オンコール」と呼ばれる時間帯が労働時間に含まれるのかが争われました。

 

【裁判所の判断】

裁判所は、看護師が勤務先から呼び出しの電話があれば、直ちに駆けつけることができる場所にいることを余儀なくされており、実際の対応頻度も、決して少ないとは言い切れないことから、看護師が緊急対応業務に対応した時間だけでなく、待機時間全体について、労働基準法上の労働時間に該当すると認定しました。

そして、未払い残業代として約990万円付加金として約780万円の支払いを命じました。

 

残業代の未払いでお困りの看護師の方はグラディアトル法律事務所にご相談ください

看護師の残業代請求はグラディアトルへ 

看護師の残業代に関する問題には、一般的な労働者とは異なる特有の問題点が複数含まれています。このような看護師の方の残業代のトラブルを解決するためには、労働問題に詳しい弁護士によるサポートが不可欠といえます。

グラディアトル法律事務所では、未払い残業代の問題をはじめとする労働問題に関する豊富な解決実績がありますので、看護師に関する残業代の問題についても適切に解決に導くことができます。不規則な勤務をしている看護師の方でも弁護士に相談できるよう、当事務所では、平日の夜間や土日祝日の法律相談も実施しています。初回法律相談は無料ですので、まずはお気軽に当事務所までお問合せください。

 

まとめ

看護師は、残業時間が多くサービス残業が常態化しているため、適正な残業代が支払われていない職業のひとつです。深夜労働や休日出勤も多いため、未払い残業代の金額は高額になる可能性もあります。

残業代請求には3年という時効がありますので、時効により権利が失われてしまう前に早めに対応することが大切です。残業代請求をお考えの看護師の方は、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。



弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

お悩み別相談方法

相談内容詳細

よく読まれるキーワード