塾講師|名ばかり取締役の残業代請求|訴訟上の和解で165万円獲得した事例

弁護士 若林翔
2024年04月22日更新

今回は、弊所で受任した残業代請求についての事件の中から、塾講師として働いており、「取締役」としての地位が与えられていたにもかかわらず、会社と和解の末165万円の支払いを得た事例についてご紹介させていただき、併せて解決までのポイントなどを解説しようと思います。

事例の概要|取締役だが働き方は従業員と同じ?

ご依頼者は大阪府内の学習塾で講師として働いていた30代の男性です。

塾経営会社の取締役として登記がされていました。

ご依頼者は以下のような条件で、約4年間勤務していました。

・週6日勤務

・勤務時間は13時30分~22時30分(休憩時間の定めはないが、1時間程度の休憩あり)

・週2回の会社の会議がある日は、本社に出社して2~3時間の会議に参加してから通常の勤務に移動(会議内容は会社の経営方針や授業の内容について一方的に話を聞くもので、ご依頼者が意見を述べられるような会議ではない)

・模試や塾の行事がある場合は日曜も出勤

・報酬月額28万9000円(名目は基本報酬、取締役報酬、固定残業代)(固定分の残業を超えた場合は追加残業代が出る)

ご依頼者はその年度終わりで会社を退職しましたが、残業代に相当する金銭はほとんど受け取ることができていない状態でした。

そこで、残業代の支払を求め、労働事件を多数取り扱っている弊所にご相談いただきました。

解決までの道のり|交渉→裁判で残業代請求

ご依頼者の相談を受けた弁護士は、残業代についての時効を停止させるため、直ちに相手方に内容証明郵便を送りました。残業代は時効にかかって消滅してしまう場合があるので、早めに対策する必要があります。

残業代の時効についてさらに知りたいという方は、以下の記事をご参照ください。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

すると、相手方代理人はご依頼者が「取締役」として登記されているところ、労働基準法の適用はないため、同法に基づく請求は認められないとの返答がなされました。

相手方がこの点について譲歩する気配はなく、話し合いによる解決が困難であると判断した弁護士は、訴訟を提起して残業代請求をしていくことにしました。

訴訟の中では、①ご依頼者が「労働者」に当たるか、②仮に「労働者」に当たるとして、ご依頼者の各業務活動時間が「労働時間」に当たるのかが主に争われました。

相手方が主張するように、ご依頼者は会社の登記によって公に「取締役」であることが示されていたところ、弁護士はご依頼者の実際の働き方や報酬の払われ方などを示し、実質的に見れば「労働者」と変わりなかったということを立証していきました。

結果|訴訟上の和解で165万円を獲得

その結果、訴訟の中で和解が成立し、ご依頼者は会社から165万円の支払いを受けることができました。

解決のポイント|名ばかり取締役の労働者性

まず、残業代は労働基準法37条に基づき算定されて支払われるべきものであるため、これを請求できるのは同法が適用される「労働者」に限られます。

では、「労働者」とはどのような者をいうのでしょうか。

労働基準法上、労働者とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」(労働基準法9条)をいうとされています。つまり、①「使用」されていること、②「賃金」を支払われていることが労働者に当たるとされます。

労働者性の詳しい判断方法について知りたいという方は、以下の記事をご参照ください。

名ばかりの管理職(取締役)と残業代の判例〜全従業員を管理職(取締役)にしたら残業代は払わなくていい?〜

「管理職の残業代は出ない」は間違い!違法なケースや請求方法を解説

 

今回のご依頼者は、「経営者として取締役に就任する」という文言が含まれた書面に署名してしまっていたため、形式的に見れば「使用」されているとはいえず、また、給与ではなく報酬として金銭を受け取るものとされていたところ、「賃金」を受け取っているとはいえないとも思える状況になっていました。

しかし、この書面に署名する前、ご依頼者はその勤務時間や勤務場所を会社から一方的に定められ、勤務時間に対応した給料を受け取っていました。

そして、この書面に署名をした後においても、会社とご依頼者の関係は相変わらず一方的なもので、業務内容や報酬額もほとんど変わっていませんでした。

そのため、署名により形式上取締役となっていても、なお「労働者」としての性質をも有していたと考えられます。

このことから、ご依頼者は「労働者」として残業代請求をできる可能性が高かったところ、ご依頼者に有利な条件で和解手続が進みました。

最後に|形式よりも実質的な働き方が重要

このように、形式上取締役の名称が付与されていたからといって、必ずしも労働基準法上の保護を受けることができないというものではありません。

今回は結局和解に落ち着きましたが、同様の事例において名ばかりの取締役が「労働者」に当たることを認定した裁判例もあります(京都地判平成27年7月31日等)。

弊所弁護士は、ご依頼者が実際の労働に応じた正当な対価を受け取ることができるよう、精力的に活動していきます。残業代請求をしていきたいとお考えの方は、ぜひ一度、弊所にお問い合わせください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

お悩み別相談方法

相談内容詳細

よく読まれるキーワード