「職業安定法違反で実刑になる可能性はある?」
「職業安定法違反の法定刑はどのくらい?」
「職業安定法違反で実刑を回避するためのポイントとは?」
職業安定法とは、労働の募集や職業紹介、労働者供給に関するルールを定めた法律である。無許可で有料職業紹介事業を行うようなケースが代表的であるが、最近はホストクラブの利用客が高額な売掛金を背負い、その返済のためにホストやスカウトから性風俗店を紹介されるケースが増えてきており、これも職業安定法違反となる。
職業安定法違反で起訴されると99%以上の事件が有罪になり、罰金の実刑判決になるケースが多い。また、職業安定法違反で懲役刑が科されるケースもあるが、悪質な事案でなければ執行猶予付き判決により実刑を回避できるケースが多いといえる。
職業安定法違反で実刑を回避するには、いくつかポイントがあるため、それらを押さえて行動することが重要である。
本記事では、
・職業安定法違反で実刑になる可能性
・職業安定法違反で実刑になったときの量刑
・職業安定法違反で実刑を回避するための5つのポイント
などについてわかりやすく解説する。
職業安定法違反で実刑を回避するなら、弁護士のサポートが不可欠であるため、早期に弁護士に相談・依頼することをおすすめする。
結論から言うと職業安定法違反で懲役刑の実刑になるケースは少ない。
2023年検察統計(23-00-08、23-00-71参照)によると、職業安定法違反で起訴された事件は35件、不起訴処分になった事件は53件であるため、職業安定法違反による起訴率は、約40%ということになる。
また、起訴された事件のうち公判請求が11件、略式命令請求が24件であった。
公判請求とは、公開の法廷で審理を求める手続きで一般的な刑事裁判がこれにあたる。公判請求された事件は、99%以上が有罪となり法定刑の範囲内で懲役または罰金刑が科されることになる。
略式命令請求とは、被疑者に異議がないことを条件に簡易裁判所の書面審査のみで100万円以下の罰金または科料を科す手続きである。略式命令請求された事件は、公判請求された事件とは異なり、懲役刑が科されることはなく、必ず罰金または科料が科されることになる。
職業安定法違反で起訴された事件の約69%は、略式命令請求になっているため、職業安定法違反の罪は、罰金刑の実刑になるケースが多いといえるだろう。
他方、公判請求された事件のうち執行猶予が付いた事件は3件である。公判請求された事件で懲役刑が選択された件数が不明であるため正確な評価は難しいものの、公判請求された事件でも罰金刑が科されるものがあり、罰金刑には通常執行猶予はつかないため、職業安定法違反で懲役刑の実刑になるケースは少ないと考えられる。
職業安定法違反の罪は、罰金刑の実刑になるケースが多いが、罰金刑の金額は、違反行為ごと異なるため、主な違反行為ごとの法定刑を知っておくことが有益である。
職業安定法では、有害業務目的での職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供などの行為が禁止されている。これに該当するものとしては、以下のような行為が挙げられる。
・闇バイトの募集
・性風俗店やアダルトビデオ撮影などの有害業務へのスカウト
・ホストが売掛金の回収のために女性客を性風俗店に紹介する
このような有害業務目的での職業紹介の罪の法定刑は、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金と定められている。
職業安定法では、労働者供給事業の許可を得ずに労働者供給を行うといういわゆる「偽装請負」が禁止されている。たとえば、以下のような行為が偽装請負の労働者供給事業に該当する。
・表向きは請負契約であるが実質的には労働者派遣である
・派遣事業の許可を得ずに労働者を他企業に派遣する
このような偽装請負の労働者供給事業の罪の法定刑は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金と定められている。
職業安定法では、虚偽の求人広告や虚偽の条件を提示して職業紹介や労働者募集をすることを禁止している。
この罪の法定刑は6月以下の懲役または30万円以下の罰金と定められている。
職業安定法違反で実刑を回避するなら以下の4つのポイントを押さえておくことが重要である。
職業安定法違反の罪を犯した人の中には、違法なスカウトバックにより生計を立てている人も少なくない。違法なスカウト以外に収入源がない状態だと、再び犯罪に手を染める可能性があるため、実刑判決が言い渡されるリスクが高くなってしまう。
職業安定法違反で実刑を回避するには、再犯防止のための対策が必要になるため、すぐに仕事を探して安定した収入を得られるようにすることが重要である。
性風俗店に女性を紹介するなどの違法なスカウト行為をしている人の中には、暴力団とのつながりがある人もいる。また、スカウトグループの一員として活動している場合、複数の共犯者とのつながりがある人もいる。
このような暴力団や共犯者との関係性が継続したままだと、再び職業安定法違反の罪を犯す可能性が高まるため、実刑判決が言い渡される可能性がある。
職業安定法違反で実刑を回避するには、遠方に引っ越す、共犯者の連絡先をすべて削除するなど暴力団や共犯者との関係性を断ち切ることが重要である。
本人の反省の態度も実刑を回避するための重要な要素の一つである。
職業安定法違反の罪を犯したのが事実であるなら、早期に犯罪事実を認めて、捜査に協力した方がよいだろう。また、反省文を作成して、検察官や裁判官に提出することも実刑回避の可能性を高めるための行動として有効である。
職業安定法違反の再犯防止策として、家族、上司、友人などに監督者になってもらう方法がある。適切な監督者がいて、監督者による監督が期待できる状況であれば、再犯防止につながると評価できるため、職業安定法違反で実刑を回避できる可能性を高めることができる。
以下では、職業安定法違反で実刑を回避して執行猶予が付いた裁判例を紹介する。
【事案の概要】
被告人は、アダルトビデオ女優の紹介、あっせん等を業とする株式会社Bの従業員であった者であるが、アダルトビデオ女優の業務に就かせる目的で、当時19歳の被害者をアダルトビデオ女優として紹介して雇用させ、もって公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介をしたという職業安定法違反の罪で起訴された。
【裁判所の判断】
被告人が行った本件行為は、職業安定法上の職業紹介に該当するとし、未成年者の判断力の未熟さに乗じ、なおかつ、女性の人格を尊重せず、有害な労務に誘導するものであって、強く非難されるべきである。
被告人は、公判廷に至っても、自分は一度面接をしただけであり、その後被害者がアダルトビデオに出演することになるかどうかは分からなかったなどと不合理な、あるいは自己の責任を極力矮小化する発言に終始しており、自身の行為の問題性を省みる姿勢も被害者の心情に思いを致す態度も甚だ不十分であって、その刑責の程を理解させるに足りる科刑が必要である。
一方、被害者の出演したアダルトビデオについては、事後的ではあるもののアダルトビデオ制作会社により流通させない措置が採られたこと、被告人には前科前歴がないことなど被告人にとって酌むことのできる事情も存在する。
そこで、以上の事情を総合考慮した上で、被告人に対して、懲役1年6月・執行猶予4年の判決が言い渡された。
【事案の概要】
被告人は、無店舗型性風俗特殊営業店「N」の人事を担当しているOに対し、同店が女性従業員に不特定の男性客を相手に手淫、口淫等の性交類似行為をさせる店であることを知りながら、同店の従業員として就業させる目的で、P(当時20歳)を女性従業員として紹介して雇用させ、もって公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介を行ったなど合計4件の職業安定法違反の罪で起訴された。
【裁判所の判断】
被告人らは、各種のマニュアル等を整え、指示役、女性のスカウト役、性風俗店側への紹介役や仲介役等の役割分担のもと、1年余りの間に4回にわたり、スカウト役が街頭で女性に声をかけ、性風俗等の仕事に興味を示した女性については性風俗店に紹介し、これに興味を示さない女性については、その後もスカウト役が繰り返し連絡を取り、一緒に食事をするなどして好意を抱かせて被告人ら運営の飲食店に誘い込み、スカウト役と交際するためには売上に貢献する必要がある旨言ったり、高額の飲食をさせたりした上で、稼げる店があるなどとして半ば強引に勧誘して性風俗店での就労を決意させており、巧妙な手口による組織的かつ職業的な犯行であって、公衆道徳上の有害性も顕著である。そして、被告人は、前記飲食店の経理を担当し、Aらから指示を受けていたとはいえ、性風俗店からの紹介料等を集計して従業員である共犯者らの報酬を計算するなどの重要不可欠な役割を果たしており、スカウト役よりも上位の立場にあったものと認められる。もとより紹介料欲しさなどという利欲的な動機に酌量の余地はない。
以上によれば、本件の犯情はかなり悪く、被告人の刑事責任は相当に重いといわざるを得ない。
しかしながら、他方、被告人は、事実関係をいずれも認めるなどして反省の態度を示していること、前科前歴がないこと、父親が出廷して被告人に対する指導監督を約していることなどの被告人に有利な一般情状も相応に認められることから、被告人に対しては、今回に限り社会内で自力更生する機会を与えることとして、懲役2年6月・執行猶予4年の判決が言い渡された。
職業安定法違反の罪で起訴されると、大部分の事件は略式命令請求による罰金の実刑判決となっているため、実刑を回避するなら不起訴処分を獲得することが重要である。職業安定法違反の不起訴率は約60%であることから、適切な弁護活動をすることで不起訴処分を獲得することは十分可能であるといえる。
ただし、職業安定法違反の弁護を依頼する弁護士は、弁護士であれば誰でもよいというわけではない。刑事事件に強く、職業安定法違反の事案の弁護経験が豊富な弁護士に依頼するべきである。特に、性風俗店へのスカウトなどの事案だと、ナイトビジネス業界に関する知識や理解も必要になるため、ナイトビジネス業界に特化した弁護士に依頼するのが安心である。
グラディアトル法律事務所では、ナイトビジネス業界で全国1000件以上の解決実績があり、500店舗以上の風俗店の顧問弁護士を担当しているなど、ナイトビジネス業界に特化した弁護士事務所といえる。性風俗店へのスカウトなどの職業安定法違反の弁護経験も豊富であるため、少しでも有利な処分を獲得したいなら、ぜひ当事務所の弁護士に任せてもらいたい。
当事務所では、24時間365日受付をしているため、深夜にスカウト行為をして逮捕されたという場合でも対応が可能だ。刑事事件はスピード勝負といわれるように初動対応の早さがポイントになるため、一刻も早く当事務所まで連絡してほしい。
職業安定法違反で起訴されると略式命令請求による罰金の実刑判決になる事案が多いため、実刑を回避するなら不起訴処分を獲得することが重要である。
それには、経験豊富な弁護士によるサポートが不可欠になるため、すぐにグラディアトル法律事務所まで相談してもらいたい。