「職業安定法違反で逮捕された事例にはどのようなものがある?」
「職業安定法違反で有罪になった判例を見てみたい」
「風営法改正でスカウトバック規制はどうなったの?」
職業安定法とは、労働の募集や職業紹介、労働者供給に関するルールを定めた法律である。近年、ホストクラブの利用客が高額な売掛金を背負い、その返済のために性風俗店での勤務や売春などを行う事例が増えてきており、深刻な社会問題となっている。それに伴い、女性客を性風俗店などにあっせんするなどの行為をしたホストやスカウトなどが職業安定法違反で検挙される事例も増加している。
「仕事を紹介しただけだから問題ない」という認識を持っている人も多いが、有害業務を紹介することは職業安定法により禁止されている行為であるため、逮捕される可能性がある点に注意が必要だ。
本記事では、
・職業安定法違反で逮捕された事例
・職業安定法違反で起訴され有罪になった事例
・風営法改正により新たに規制対象となったスカウトバック
などについてわかりやすく解説する。
本記事を参考にして少しでも心当たりのある行為をしてしまったという方は、職業安定法違反で逮捕される前に、弁護士に相談することをおすすめする。
以下では、職業安定法違反で逮捕された事例をいくつか紹介する。
全国の性風俗店に女性を斡旋し、摘発を受けた巨大スカウトグループ「アクセス」を巡る事件で、アクセスが契約する性風俗店が全国で約1800店舗に上ることが、警視庁への取材で分かった。同庁は職業安定法違反の疑いで、リーダーの被告(33)=同法違反罪で起訴=ら4人を再逮捕した。
保安課によると、アクセスは契約した性風俗店に女性の採用条件などの情報を送付させ、これらをパスワード付きのサイトに掲載。スカウトらが女性の斡旋先を探す際に参照していたという。サイトを調べた結果、約1800店舗と契約していたことが分かった。
また、警察への対策として、「弁護士に相談のもと作成した」とするマニュアルを用意し、構成員が逮捕された際に黙秘を徹底することや、グループの存在を明かさないことなどを指示していたという。
(引用:産経新聞)
風俗スカウト「アクセス」約1800店舗と契約か 職業安定法違反容疑で幹部4人再逮捕
SNSで勧誘した女性を風俗店に紹介したとして、愛知県警は、大阪を拠点とするスカウトグループ「シード広告」のリーダーの男(27)(大阪市西区)ら男4人を職業安定法違反(有害業務への職業紹介)容疑で逮捕したと発表した。
発表によると4人は、別のスカウトがSNSで知り合った女性(24)に対し、石川県加賀市の風俗店での仕事を紹介した疑い。
リーダーの男は、SNSを通じて風俗の仕事に応募してきた女性たちを愛知や石川、広島などの風俗店にあっせんしていたという。
(引用:読売新聞)
SNSで勧誘し風俗店に紹介、スカウトグループ「シード広告」のリーダーら4人を容疑で逮捕
福岡県警は、カンボジアに渡航して特殊詐欺の電話をかける「かけ子」をするよう勧誘したとして、職業安定法違反(有害業務目的紹介)の疑いで福岡市博多区板付5丁目、会社員の容疑者(29)と、福岡県筑紫野市下見、会社員の容疑者(35)を逮捕したと発表した。
逮捕容疑は共謀して県内に居住する知人の30代男性を勧誘したとしている。
県警によると、男性は両容疑者のうちの1人に数百万円の借金があった。容疑者らはパスポートを取得するよう男性に指示し、東南アジア行きの飛行機を予約していた。男性が3月中旬、県警に相談して発覚した。
(引用:産経新聞)
カンボジア渡航で詐欺勧誘 知人男性に「かけ子」持ち掛け 容疑で男2人逮捕
福岡県警は、職業安定法違反(有害業務の募集)の疑いで、福岡市南区在住の会社経営者ら3名を逮捕した。
逮捕されたのは、風俗店経営者(44)、風俗店従業員(30)、系列店の元従業員(21)。
調べによると、容疑者らは、福岡市南区大橋にある飲食店で、同市南区に住む女性(当時25)を、風俗店経営者の容疑者が経営する中洲1丁目の風俗店業務に従事させる目的で勧誘した疑いがもたれている。この行為が、職業安定法第63条第2項に定められている「公衆衛生または公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集もしくは労働者の供給を行った」とみなされ、今回の逮捕に至った。
(引用:NetIB-NEWS)
職業安定法違反の疑いで逮捕されたのは、仙台市青葉区国分町にあるホストクラブの従業員(26)。
警察によると、齋藤容疑者、自身が勤めるホストクラブの客である仙台市の20代女性に対し、性風俗店の仕事を紹介した疑いが持たれている。
容疑者は、今年3月に20代女性の頭や背中を殴るなどしてけがをさせた疑いで、逮捕されていた。
その捜査の過程で、容疑者の携帯電話に女性へ性風俗店を紹介する内容のメッセージがあり、今回の事件が発覚。
警察は捜査に支障があるとして、容疑者の認否を明らかにしていない。
警察は共犯者の有無など捜査を進めている。
(引用:ミヤテレ)
ホスト(26)が女性客に“性風俗店”の仕事紹介した疑い、逮捕(仙台市)
福岡地検は、国内最大級の風俗求人サイト「ガールズヘブン」に、売春目的の店と知りながら求人情報を掲載したとして職業安定法違反(有害業務の募集情報等提供)容疑で逮捕されていた4人のうち男性(34)を不起訴処分としたと発表した。残る3人とサイトの運営元の広告代理店「ウィンノット」(福岡市博多区)は同日付で福岡区検が略式起訴した。
また、違法店と認識した上で風俗情報サイトに広告を掲載し料金を得たとして同社と代表取締役の男性(52)が組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)容疑で書類送検されていたが、福岡地検が同日付で不起訴処分とした。
(引用:毎日新聞)
違反類型 | 内容 |
---|---|
性風俗店への職業紹介 | 売掛金返済目的で女性客をソープ、デリヘル、AV出演などへ紹介する行為。職業安定法63条2号違反。 |
闇バイトの職業紹介 | SNS等で詐欺・強盗など犯罪行為の実行役を募集する闇バイト紹介も職業安定法違反。 |
有害業務に就かせる目的での労働者募集 | 風俗店面接時の積極的な勧誘など、募集行為自体が違法となるケース。 |
有害業務の募集情報等提供 | 求人サイトに売春等の情報を掲載した場合、依頼者だけでなくサイト運営者も処罰対象。 |
職業安定法違反となる主な行為類型は、以下のように分類することができる
近年、逮捕事例が増加しているのがホストやスカウトによる性風俗店への職業紹介である。ホストクラブでの高額な売掛金が支払えなくなった女性客を性風俗店などで働かせて、売掛金の回収を図ろうとするものである。
職業安定法63条2号では、有害な業務に就かせる目的で職業紹介をすることを禁止しており、ソープランド、デリヘル、アダルトビデオへの出演などの仕事は有害業務に該当すると考えられている。そのため、このような性風俗店への職業紹介は、職業安定法違反になる。
職業安定法で規制されている有害な業務には、性風俗店などの業務だけではなく、違法な闇バイトも含まれる。SNSなどで高額な報酬がもらえると謳って、詐欺や強盗などの犯罪の実行役の仕事を募集するケースが増えている。
このような闇バイトの職業紹介も職業安定法違反に該当する。
職業安定法では、有害業務を紹介する行為だけではなく、自ら募集する行為も禁止されている。労働者の募集とは、単なる求人募集ではなく積極的な働きかけがあったことを指すため、風俗店の店長などが面接に来た女性に対して、積極的な勧誘行為をすると、職業安定法が禁止する有害業務目的での労働者募集に該当する可能性がある。
求人サイトに売春などの有害業務の求人情報を掲載すると、職業安定法が禁止する有害業務の募集情報等提供に該当する可能性がある。
求人情報の掲載を依頼した者だけではなく求人情報を掲載したサイト運営者も処罰される可能性がある点に注意が必要である。
以下では、職業安定法違反で起訴され有罪になった判例を紹介する。
【事案の概要】
被告人は、アダルトビデオ女優の紹介、あっせん等を業とする株式会社Bの従業員であった者であるが、アダルトビデオ女優の業務に就かせる目的で、当時19歳の被害者をアダルトビデオ女優として紹介して雇用させ、もって公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介をしたという職業安定法違反の罪で起訴された。
【裁判所の判断】
被告人が行った本件行為は、職業安定法上の職業紹介に該当するとし、未成年者の判断力の未熟さに乗じ、なおかつ、女性の人格を尊重せず、有害な労務に誘導するものであって、強く非難されるべきである。
被告人は、公判廷に至っても、自分は一度面接をしただけであり、その後被害者がアダルトビデオに出演することになるかどうかは分からなかったなどと不合理な、あるいは自己の責任を極力矮小化する発言に終始しており、自身の行為の問題性を省みる姿勢も被害者の心情に思いを致す態度も甚だ不十分であって、その刑責の程を理解させるに足りる科刑が必要である。
一方、被害者の出演したアダルトビデオについては、事後的ではあるもののアダルトビデオ制作会社により流通させない措置が採られたこと、被告人には前科前歴がないことなど被告人にとって酌むことのできる事情も存在する。
そこで、以上の事情を総合考慮した上で、被告人に対して、懲役1年6月・執行猶予4年の判決が言い渡された。
【事案の概要】
被告人は、無店舗型性風俗特殊営業店「N」の人事を担当しているOに対し、同店が女性従業員に不特定の男性客を相手に手淫、口淫等の性交類似行為をさせる店であることを知りながら、同店の従業員として就業させる目的で、P(当時20歳)を女性従業員として紹介して雇用させ、もって公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介を行ったなど合計4件の職業安定法違反の罪で起訴された。
【裁判所の判断】
被告人らは、各種のマニュアル等を整え、指示役、女性のスカウト役、性風俗店側への紹介役や仲介役等の役割分担のもと、1年余りの間に4回にわたり、スカウト役が街頭で女性に声をかけ、性風俗等の仕事に興味を示した女性については性風俗店に紹介し、これに興味を示さない女性については、その後もスカウト役が繰り返し連絡を取り、一緒に食事をするなどして好意を抱かせて被告人ら運営の飲食店に誘い込み、スカウト役と交際するためには売上に貢献する必要がある旨言ったり、高額の飲食をさせたりした上で、稼げる店があるなどとして半ば強引に勧誘して性風俗店での就労を決意させており、巧妙な手口による組織的かつ職業的な犯行であって、公衆道徳上の有害性も顕著である。そして、被告人は、前記飲食店の経理を担当し、Aらから指示を受けていたとはいえ、性風俗店からの紹介料等を集計して従業員である共犯者らの報酬を計算するなどの重要不可欠な役割を果たしており、スカウト役よりも上位の立場にあったものと認められる。もとより紹介料欲しさなどという利欲的な動機に酌量の余地はない。
以上によれば、本件の犯情はかなり悪く、被告人の刑事責任は相当に重いといわざるを得ない。
しかしながら、他方、被告人は、事実関係をいずれも認めるなどして反省の態度を示していること、前科前歴がないこと、父親が出廷して被告人に対する指導監督を約していることなどの被告人に有利な一般情状も相応に認められることから、被告人に対しては、今回に限り社会内で自力更生する機会を与えることとして、懲役2年6月・執行猶予4年の判決が言い渡された。
【事案の概要】
被告人は、ファッションマッサージ店を経営する者であるが、同店において不特定多数の男客から対価を得て「手淫」「口淫」などの性交類似行為をするマッサージ嬢を雇入れるため、同店に応募してきたB(当時19歳)と面接し、さらにその後同女宅に架電するなどし、同店のマッサージ嬢として稼働することを勧誘しもって、それぞれ公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者の募集をしたという職業安定法違反の罪で起訴された。
【裁判所の判断】
裁判では、被告人の行為が職業安定法が規制する「労働者の募集」に該当するかどうかが争点になった。
「労働者の募集とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人をして、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することをいう。」と定義しているが、職業安定法が規制する勧誘があるというためには、労働者となろうとする者に対し、被用者となるように勧め、あるいは誘うなどの働きかけのあることが必要であって、単なる面接や雇用(労働)条件の告知など労働契約締結に当然伴う行為は、労働者となろうとする者の意思決定に事実上影響を及ぼすことがあっても、勧誘に当たらないと解するのが相当である。
被告人は、応募してきたBを面接し、勤務条件を説明したあと、採否の結論を保留し、Bも最終的な就職の意思を保留して帰ったところ、マッサージ嬢の人数が急に足りなくなったため、連絡をする予定の日よりも前にBに電話をしてその日から働いてほしいと頼んで稼働させるに至った事情が認められことから、これらの行為は勧誘ひいては募集に当たるといえる。
なお、被告人には、本件犯行まで前科はなく、本件検挙後は営業を自粛し、本件犯行については一応反省の情を明らかにしていることなど有利な事情もあり、これらの犯情を考慮し、懲役8月・執行猶予2年の判決を言い渡した。
2025年3月7日、悪質なホストクラブへの対策などをまとめた風営法の改正案が閣議決定された。
改正風営法では、性風俗店がスカウトバックを支払う行為を新たに規制対象としている。これにより在籍する風俗店のキャストが友達を風俗店に紹介した場合に紹介料を支払う、紹介の見返りとして報酬を上乗せするなどの利益提供は、このスカウトバック禁止規制に抵触するため注意が必要だ。
スカウトバック禁止規制に違反した場合、6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されることになる。
なお、政府は、2025年の通常国会での改正風営法の成立を目指しており、成立した場合、交付から1か月後に施行となる見込みである。
性風俗店や闇バイトの職業紹介、求人サイトへの有害情報の掲載などの行為は、すべて職業安定法に違反する行為である。近年、悪質なホストクラブの問題でこのような違法なスカウト行為などは厳しく取締りが行われており、風営法改正によりスカウトバックも規制される予定である。
このような職業安定法違反で逮捕されてしまうと、長期の身柄拘束や罰金または懲役刑が科されるリスクがあるため、早期に弁護士に相談することが重要である。
グラディアトル法律事務所では、ナイトビジネス業界で全国1000件以上の解決実績があり、500店舗以上の風俗店の顧問弁護士を担当しているなど、ナイトビジネス業界に特化した弁護士事務所といえる。性風俗店へのスカウトなどの職業安定法違反の弁護経験も豊富であるため、少しでも有利な処分を獲得したいなら、ぜひ当事務所の弁護士に任せてもらいたい。
当事務所では、24時間365日受付をしているため、深夜にスカウト行為をして逮捕されたという場合でも対応が可能だ。刑事事件はスピード勝負といわれるように初動対応の早さがポイントになるため、一刻も早く当事務所まで連絡してほしい。
職業安定法では有害な業務に就かせる目的での職業紹介、労働者募集など行為が禁止されており、実際に逮捕された事例も複数存在している。近年、悪質なホストクラブ問題を起因として、違法なスカウトの取締りが強化されており、このような行為に関与していると逮捕される可能性が高いため注意が必要である。
万が一、職業安定法違反で逮捕されてしまったときは、弁護士によるサポートが不可欠であるため、すぐにグラディアトル法律事務所まで相談してもらいたい。