貞操権侵害の慰謝料相場と判例解説!交際相手が既婚者だったら損害賠償できる!?

恋人や結婚相手を求めて、かつては友人や同僚の紹介による出会いが多かったのですが、最近ではマッチングアプリや出会い系サイト・婚活サイト、婚活パーティーなどでの出会いが増えています。

使っていたアプリやサイトが「婚活」向けだったことから、てっきりあなたが相手を独身だと誤信してしまっていたり、むしろ相手が独身だと嘘をついて近づいてきたりして、相手の素性をよく知らないまま交際した結果、のちに「付き合っていた人が実は既婚者だった」と判明するケースが、しばしばあります。

このような時に、
・既婚者の相手に騙されたあなたに何が出来るのか
・相手の配偶者(交際していた既婚者の妻または夫)から、あなたが何をされるのか

前者については、貞操権侵害に基づく慰謝料等の損害賠償請求ができる可能性があります。

後者については、不貞(不倫)慰謝料の請求がされてしまう可能性があります。


以下では、慰謝料の相場、判例、示談交渉、訴訟提起の方法などについて、弁護士が詳しく解説します。

交際相手が既婚者かどうかの調査方法

まず、交際相手や好きになった相手が「既婚者かもしれない」と疑念を抱いたら、弁護士に相談しましょう。

もちろん、あなたが相手に質問したり、動きをよく観察したりして、既婚者かを判断するのも1つの方法ではありますが、相手に「まさか既婚者じゃないよね?」と聞いても、そんなに素直に教えてくれないでしょう。まずは既婚者かどうか真実を確かめることが重要です。

弁護士は弁護士法第23条の2に基づいて、弁護士にだけ認められる調査権(弁護士会照会制度)を用いて、相手が既婚者かどうかを調査することができます

この際、相手の氏名(本名フルネームの漢字)と、住民票上の住所(過去のもので可)または勤務先が分かれば、そこから調査できます。

どちらも分からなかったとしても、携帯電話の電話番号から特定することも可能です。

メールアドレス(特にgmailなどの、日本の携帯電話会社ではないフリーアドレス)や、LINEのプロフィール名だけしか分からない場合は、氏名や住所を調べることは難しいので注意してくださいね。

既婚者だと判明したときは?

ここからは、弁護士会照会を経て相手が既婚者だと分かった時にするべきことを解説していきます。

まずは、相手の家族からあなたに対して請求されるものを知って、その防御に備えましょう。

不貞(不倫)慰謝料請求(交際相手の配偶者からの請求)

婚姻関係にあるカップルには、法的に様々な権利や義務が発生します。その中の1つに「夫婦の貞操義務」があります。配偶者以外の人と性的関係をもたない義務のことです。

この貞操義務に反して「不貞な行為」(不貞行為)をすると、民法770条1項1号で定められた離婚原因となります。

(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

民法

この貞操義務違反=不貞行為があったときは、配偶者は貞操義務違反をした者に不倫慰謝料の請求(民法710条)ができます。

不貞・不倫慰謝料の金額の相場は、不倫相手(あなた)との交際期間や不貞行為の回数、相手と配偶者が離婚にまで至ったかなどによっても幅がありますが、数十万~300万円とも言われています。

では、あなたと既婚者がなした交際は「不貞行為」に当たるでしょうか?

不貞・不倫行為とは

「不貞行為」とは、「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」をいいます。

「自由な意思に基づいて」という文言は、意思に反する性交渉、たとえば暴行や脅迫によって無理に性交渉をさせられた場合(こちらの場合は、刑法177条の強制性交等罪に該当する可能性があります)などは除くことを示しています。

具体的には、肉体関係すなわち性交渉の有無で判断されます。

なので、食事やデートをしているだけ、LINEで好きと言っているだけ、キスやハグをしているだけ、ラブレターを送っただけ、であれば不貞行為には当たりません。

一方、「性交渉のできる密室(例えばラブホテルや、ビジネスホテルのデイユースプランなど)にふたりだけで相当な時間行った」などの場合は、いくら肉体関係はない!一線は超えていない!といってもなかなか認められづらいでしょう。

不貞慰謝料請求の要件

先ほど見た「不倫慰謝料請求」に基づいて、支払い義務が発生するためには主に4つの要件(民法710条、709条)が必要です。

1.あなたが、故意または過失によって権利侵害行為をしたこと
2.相手の配偶者に損害が発生したこと
3.権利侵害行為と損害との間に因果関係があること
4.権利侵害行為の違法性(:要件4は貞操義務違反があるので充足します)

これらの要件に当たらなければ、あなたは不倫慰謝料請求の支払いをする義務がなくなります。

今回の話題にしているケースのように、あなたが、交際相手が既婚者だったと知らず、そのことについて過失がなければ、「1.あなたが、故意または過失によって権利侵害行為をした」とはいえず、交際相手の配偶者からの慰謝料請求は認められません

不貞慰謝料請求されないための対策

まず、相手が既婚者だと知った時点から、相手との肉体関係を持つことはやめることです。

相手が既婚者だと発覚した時点では、あなたは騙された「被害者」ですが、それ以降も肉体関係を持ってしまうと、あえて不倫を行った「加害者」となってしまいます。
先ほどの要件1「故意によって権利侵害行為(=不貞行為)をしたこと」を充足してしまうのです。

そうすると、相手の配偶者からの請求を拒めないのはもちろん、それだけでなく、「既婚と知っていたのに交際していた」点で、後述のとおり、あなたが相手に請求する際にも不利な言動となってしまいます。

次に、証拠を集めて残すことです。

請求をしたり、回避したりする際には、口頭で説明するだけでは裁判官は認めてくれません。証拠を集めましょう。

ポイントは
①相手が既婚者であること
②相手が既婚者であることを、あなたが知らなかったこと
③相手が既婚者であることを知らなかったことについて、あなたに過失がないこと
です。

どれがどのポイントに合うかは、判別がとても難しいです。

なので、あなたは、現時点で取得できる情報は、なるべくたくさん保存(スクリーンショットや録音録画など)しておきましょう。

〇証拠になるものリスト
1 マッチングアプリや出会い系サイトの掲載情報
既婚者禁止のサイトか、どのようなプロフィールだったか、アプリ上のやりとりで何と言っていたか、など。

2 LINEやメール・DMなどのやりとり
「未婚」と明言していたり、既婚者であることを否定したりするメッセージは◎。もし無くても、独身と誤信するようなやりとり(「一緒に住もうね」「将来子どもができたら~」など)でもOK。

3 いつ・どのくらいの頻度で相手に会っていたかが分かる記録
一緒にいるときに撮った写真や、会う日にマークをつけた手帳など。一般的に「家族がいると難しいと考えられることでも相手がおこなっていたこと」の証拠があると◎。たとえば、土日でも会っていた・泊りで旅行に行っていた・夜の時間も自由に会えていた・自宅と思われる部屋に招かれたなどが、既婚者だとは予見・認識することができなかったことを裏付ける証拠となります。

上記のリストにないものでも、証拠になりそうと思ったら、消したり無くしたりしないよう保存しておいてください。

相手への怒りやモヤモヤや、相手の家族への罪悪感などで、履歴を消してしまう前に、少しつらいかもしれませんが、今後のために証拠を保存しましょう。

これらをもとに、あなたの弁護士が、相手や相手方弁護士とやりとりをすることで、請求を回避したり、減額したりすることが可能になってきます。

貞操権侵害の慰謝料請求

18歳以上の大人は、どんな人と付き合うのか・誰と性交渉するのかを、自分で判断する自由・権利を持っています。

「貞操権(ていそうけん)」とは、「性的な自由に不当な干渉を受けない権利・純潔を侵害されない権利」のことです。

この貞操権を侵害する行為には、脅迫や暴力・薬物などで自分の意に反して強制的に性交渉をさせられることだけでなく、既婚者が独身だと偽って独身同士の恋愛関係のように付き合い、肉体関係をもつことも該当します。

もし既婚者だと知っていたら体の関係を持つことはなかったかもしれないからです。
相手が既婚であることを隠したり、偽ったりすることで、あなたが誰と性交渉するのかの判断を害したということになりますね。

この場合、あなたの性的な判断の自由を不法に侵害したといえるので、貞操権侵害という「不法行為」(民法710条、709条)が成立します。

そのため、あなたが既婚者だと発覚した相手に対し、不法行為に基づく損害賠償請求のうち、貞操権侵害の慰謝料請求をすることができます。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

民法

貞操権侵害慰謝料請求(民法710条、709条)の要件は、主に以下の4つです。

1.相手が、故意または過失によって権利侵害行為をしたこと
2.あなたに損害が発生したこと
3.権利侵害行為と損害との間に因果関係があること
4.権利侵害行為の違法性(:要件4は貞操権侵害があるので充足します)

これの要件に当たることを踏まえて、あなたの弁護士が、相手や相手の弁護士と交渉をしますので、あなたはなるべくたくさんの証拠収集をしてください。

特に要件2「精神的損害」とは、いわゆる「心の傷」です。

目にはなかなか見えないので、
〇 心療内科・精神科・カウンセリングなどへの通院歴
〇 精神疾患の診断書
〇 (仕事や学校などを休まざるを得なくなったのであれば)休んだ証拠
〇 (妊娠した場合には)出産や人工妊娠中絶費用の領収書
などを証拠として保存しておき、損害の大きさを立証しましょう。

ほかにも一般的に考えられる有力な証拠については、前述の記載も参考にしてください。

貞操権侵害の慰謝料相場

貞操権侵害の慰謝料の相場は、数十万~300万円程度と言われています。

交際期間や性交渉の回数、妊娠の有無、既婚者の騙す行為の有無・内容、既婚者だと発覚した後の相手の対応などによって差があります

「貞操権侵害の慰謝料請求」は、まだまだ裁判例が多くはありません。裁判官の考え方や弁護士の主張立証次第で、認められる金額に差が出るともいえます。

実際の裁判例の考慮要素と認められた慰謝料金額を見て、相場感の参考にしてください。

では、実際に請求が認められた裁判例と認められなかった裁判例を見ていきましょう。

貞操権侵害の裁判例

あなた(原告)が、既婚者だった相手(被告)に対して、貞操権侵害の慰謝料請求をするとしたら、何がどのくらい認められるか考えてみましょう。

先ほども述べた通り、「貞操権侵害の慰謝料請求」は昨今新しく主張されるようになったものなので、まだまだ裁判例が多くありません。認められる金額も様々です。

今回は仲でも注目された5つの裁判例について、要点をまとめました。
※一番右の列はとても細かいので、裁判官が何に注目して認定金額を決めたのかを詳しく知りたい方はご覧ください。

貞操権侵害の慰謝料相場・裁判例まとめ(グラディアトル法律事務所作成)

どの裁判例も共通しているのは、画一的に判断するのではなく、個別具体的に、原告と被告の状況を詳しく見た上で判断がされている点です。

貞操権侵害の慰謝料金額では、以下の判断要素(慰謝料を増額・減額させる事情)が考慮されています。

・交際期間、性交渉の回数
・妊娠の有無
・原告の年齢
・既婚者の騙す行為の有無や内容
・ふたりが知り合った経緯
・交際中の既婚者の態度
・既婚者だと発覚した後の相手の対応 

あなたの置かれた状況がどの裁判例に近いかを考える時の参考にしてみてください。

実際に慰謝料がいくらくらいになるかは、ぜひ弁護士に聞いてみてください。

貞操権侵害の請求方法(示談・訴訟など)

1.まず、「あなたと既婚者の間に結婚を前提にした付き合いがあったこと」を示す証拠を集めましょう。
役に立つ証拠については、前述の記載をご覧ください。

2.その次に、相手に慰謝料を払ってほしい旨を伝えましょう。
穏便に話し合いによって慰謝料を支払いそうな相手であれば、まずはあなたが電話やメールなどで伝えてみても構いません。相手が了承して、約束通りに慰謝料を支払ってもらえれば、これで貞操権侵害のトラブルについては解決です。

しかし、そこですんなり慰謝料支払いの約束をしてくれる既婚者は多くありません。
また、多くの被害者はこの際に自分の傷つけられた気持ちがあふれ出て、落ち着いて話をすることも難しい場合があります。そこで、あなたの心理的負担を軽減するためにも、この時点で弁護士に相談して、弁護士から相手に連絡してもらうことをおすすめします。

3.内容証明郵便で請求書を送りましょう。
話し合いで慰謝料を支払ってもらえない場合には、内容証明郵便で「慰謝料請求書」を送ります。内容証明郵便には、請求する慰謝料の金額と支払期限、支払い方法などを書きます。内容については弁護士に相談すると良いでしょう。

4.示談交渉する。
相手と話し合い、慰謝料について合意ができたら「示談書」を作成し、合意した内容に従って慰謝料を支払ってもらいます。

5.訴訟を起こす。
話し合いによっては解決できない場合は、慰謝料請求訴訟を起こして損害賠償請求を行い、判決によって相手に慰謝料を支払わせることになります。

【注意点】

一連の流れの中で、相手にしつこく電話したり、LINEで暴言・罵倒したりして、恐喝罪や脅迫罪などと評価されてしまう行動は控えましょう。

よく見られるのは、被害者が、騙した既婚者の配偶者や、既婚者の働く会社や周囲の人に対し、不倫をバラす行為です。ほかにもSNSなどで拡散したりする行為も危険です。これらは脅迫罪・名誉毀損罪・侮辱罪などに該当するおそれがありますので控えましょう。

真剣な想いをないがしろにされたり、これからの将来設計も大きく崩れたりして、相手を許せない気持ちはよくわかります。

しかし、不適切な請求ややり取りをしてしまうと、交渉が上手くいかなかったり、最悪の場合、連絡がとれなくなったりして、さらにあなたの不利になってしまうことがあります。

弁護士からの的確なアドバイスに従って、あなたも落ち着いて判断し、交渉などの慰謝料請求の手続を進めていきましょう。

そして、既婚者と偽った相手が自分のしたことを自覚し、2度と同じようなことをしないようにさせるために、適切な額の慰謝料を請求しましょう。

まとめ

今回は、付き合っていた相手が交際を始めてから既婚者だと判明した場合について、あなたが出来ることを紹介しました。

長い付き合いを見据えて、色んな期待を込めて、大切に交際していたあなたにとって、今回のトラブルはとても大きな精神的・身体的苦痛を伴うことだと思います。

また、不倫は、最も人に相談しづらいトラブルのひとつとも言われていますから、あなたもひとりで抱えてきたのかもしれません。

グラディアトル法律事務所では、親身にお話を伺います。その上で、あなたの負担と相手にしたいことの調整をして、適切な解決策を提案します。

ご自身のためにも、泣き寝入りせずに、貞操権侵害の慰謝料請求をすることによって、一旦今回のトラブルに区切りをつけましょう。

まずは一度ご相談に来てみてください。

Bio

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。
男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。