ひととき融資とは?その違法性、逮捕事例と返済義務の有無について弁護士が解説!

近年、新型コロナウイルスによる生活苦などから、インターネット上での個人間の融資が行われることがあります。

その中でも、「ひととき融資」と言われる違法な融資が問題となっています。

この記事では、「ひととき融資」の定義、違法性、逮捕事例等について解説します。

2021年9月27日発売の『週刊ポスト』に、「借金のカタにカラダをうる「ひととき融資」にすがった女性たちの生き地獄」とのテーマの中で、ひととき融資についての解説コメントが掲載されておりますので、こちらもご覧いただけたら嬉しいです。

ひととき融資とは

「ひととき融資」とは、性行為や裸の写真・動画を送ることを条件として、個人間で融資を行うことをいいます。

融資の募集は、SNSをはじめとしたインターネット上で、「ブラックでも借りれる」などと謳い、募集が行われます。

コロナ禍で生活が苦しい女性がターゲットとして狙われ、金を貸す見返りとして性行為を求められます。

「ひととき融資」の中には、闇金業者などと同様に、違法な高金利で金を貸す業者も参入してきているようです。

また、裸の写真や動画を遅らせたり、性行為時の画像や動画を撮影することにより、返済が滞れば、画像・動画を流出させると脅すなどの手口も見られます。

中国では、裸の写真を担保に融資をする「裸ローン」が社会問題化されており、担保とされた画像・動画の大量流出事件もおきております。

ひととき融資の違法性

ひととき融資は、違法なのでしょうか?

また、どのような罪になるのでしょうか。

ひととき融資と貸金業法違反

貸金業法では、貸金業者が登録を受けないで営業をした場合には無登録営業として罰則を定めています。

無登録営業の罰則は、10年以下の懲役、3000万円以下の罰金です。

ひととき融資を行なった者が貸金業者といえるのであれば、無登録営業となります。

「貸金業」とは、業として金銭の貸付を行うものをいいます。

「業として」とは、反復継続して行う意思のもとに、金銭の貸付をなす行為をいいます。

そのため、SNSなどのネット上で融資相手を募集し、不特定の相手に対して、反復継続して行う意思のもとに貸付を行なっていた場合には、ひととき融資も業として貸付をしたとして、貸金業に該当します。

(定義)
第二条 この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。

(登録)
第三条 貸金業を営もうとする者は、二以上の都道府県の区域内に営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては内閣総理大臣の、一の都道府県の区域内にのみ営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては当該営業所又は事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。

(無登録営業等の禁止)
第十一条 第三条第一項の登録を受けない者は、貸金業を営んではならない。

第四十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 不正の手段によつて第三条第一項の登録を受けた者
二 第十一条第一項の規定に違反した者

貸金業法

ひととき融資と出資法違反

ひととき融資では、闇金業者と同様の高金利での貸し出しがなされることがあります。

出資法では、利息の制限があり、これを超える利息での貸付は違法となり、処罰の対象となります。

業者以外の貸付利息上限 年109.5%

業者の貸付利息上限 年20%

これらの上限を超えた場合、5年以下の懲役、1000万円以下の罰金となります。

また、貸金業者が年109.5%を超えた利息を付した場合には、10年以下の懲役、3000万円以下の罰金となります。

(高金利の処罰)
第五条 金銭の貸付けを行う者が、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

3 前二項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律

ひととき融資と脅迫・強要・恐喝罪

ひととき融資では、性行為時の画像・動画などをばら撒くなどと脅して、返済を迫るケースがあります。

この場合、性行為時の画像・動画などを公開するというのは、名誉などに対する害悪の告知となり脅迫罪に該当します。

脅迫を用いて、返済を要求するなど財産や脅し取ろうとする場合には、恐喝罪が成立します。

脅迫を用いて、性行為等の義務のない行為をさせる場合には、強要罪が成立します。

脅迫・恐喝等の被害にあった場合の対処法等については、以下のHPもご参照ください。

リンク:脅迫・恐喝被害の弁護士無料相談

(脅迫)
第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする

(強要)
第二百二十三条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。

(恐喝)
第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑法

ひととき融資とリベンジポルノ防止法

ひととき融資の際に、担保として提供した裸の写真や動画、性行為の際の画像や動画を公開されてしまった場合、その行為はどのような犯罪になるのでしょうか?

リベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)では、本人が第三者に見られることを認識した上で撮影を許可していない性行為・性行類似行為・裸などの画像・動画(「私事性的画像記録」)を公表、公然陳列、公表等目的所持を禁止しています。

ひととき融資の際に、担保として提供した裸の写真や動画、性行為の際の画像や動画は、本人が第三者に見られることを認識した上で撮影を許可をしたとは言えないでしょうから、「私事性的画像記録」に該当し、これをインターネット上で公開するなど、不特定又は多数の者に提供した場合には、リベンジポルノ防止法に違反することになります。

この場合、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。

リベンジポルノについては、以下の記事をご参照ください。

また、リベンジポルノの削除方法については、以下のHPもご参照ください。

リンク:リベンジポルノの削除依頼・犯人特定・発信者情報開示の方法【2021年最新版】

(定義)
第二条 この法律において「私事性的画像記録」とは、次の各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」という。)において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(次条第一項において「第三者」という。)が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。次項において同じ。)に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。同項において同じ。)その他の記録をいう。
一 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
二 他人が人の性器等(性器、肛こう門又は乳首をいう。以下この号及び次号において同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
2 この法律において「私事性的画像記録物」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、前項各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像を記録したものをいう。

(私事性的画像記録提供等)
第三条 第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、同項と同様とする。
3 前二項の行為をさせる目的で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、又は私事性的画像記録物を提供した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
4 前三項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
5 第一項から第三項までの罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。

リベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)

ひととき融資の逮捕事例

ひととき融資は、前述したように、貸金業法や出資法などの法律に違反する犯罪行為に該当することが多いです。

また、実際に、複数の逮捕事例・書類送検事例があります。

ここでは、ひととき融資の逮捕事例を見てみましょう。

コロナ禍の生活困窮者からも… 性行為を条件に貸し付けか ヤミ金融の疑いで男逮捕 千葉県警

性的関係の見返りに金を貸し法定を超える金利でヤミ金融を営んだなどとして、千葉県警は15日、貸金業法違反(無登録営業)出資法違反(超高金利)の疑いで住居不定、無職の男(52)を逮捕した。

県警サイバー犯罪対策課によると、SNSを利用して個人融資を募集。性行為を条件に金を貸す「ひととき融資」などの方法で無登録で貸金業を営んでいたとみられる。県警は、新型コロナウイルス禍による生活困窮者を含む20人以上に計約900万円を貸し付け、利益を得たとみて調べている。

県警はまた、貸し付けの際に担保として女性に送らせていた性的映像をアダルトサイトで1本当たり千円前後で販売し、約80万円の利益もあったとみている。

逮捕容疑は無登録で貸金業を営み、昨年2月13日~12月18日の間、4回にわたり、東京都などに住む20~30代の女性3人に計47万円を貸し付け、うち1人から法定の約3・7倍の利息1万9千円を得た疑い。

同課によると、容疑を認めている。県警が別のヤミ金事件で逮捕した容疑者のSNSから浮上した。

千葉日報オンライン 2021年6月16日

融資の見返りに性交渉を求める「ひととき融資」で現金を貸し付けた疑い 51歳の経営コンサルタントを書類送検

融資の条件として性交渉を求める「ひととき融資」と呼ばれる手口で、女性に高金利で現金を貸し付けたとして、警視庁目黒署は27日、貸金業法違反(無登録営業)出資法違反(高金利)の疑いで、埼玉県川口市の経営コンサルタントの男性(51)を書類送検した。「女性との体の関係を求めていた。お金を貸すことの優越感にも浸りたかった」と容疑を認めている。

署によると、男性は2010年ごろから男女約110人に融資し、約600万円の利益を得ていたとみられる。インターネットの掲示板やブログで顧客を募り、連絡が来た女性のみに返信していた。遠方の女性には、裸の画像をスマートフォンなどに送らせていたという。送検容疑では、14年10月~17年7月、貸金業の登録を受けずに都内の30代女性2人に、法定金利(1日0.3%)の約1.4~2.7倍の金利で計約20万円を貸し付けたとされる。19年3月に女性から同庁に相談があり、振込口座などから男性を特定した。

東京新聞 2021年7月27日

ひととき融資で借りた金の返済義務はあるのか?

以上で見てきたように、ひととき融資は、犯罪に該当することが多い違法行為です。

では、その違法なひととき融資で借りた金は返さなければならないのでしょうか?

結論から言えば、ひととき融資で借りた金は、不法原因給付となり、返済義務はありません

不法原因給付とは、社会の公序良俗に反するような違法な理由により給付をした者は、その返還を請求できないというものです。

(不法原因給付)
第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

民法

ひととき融資は、貸金業法や出資法に違反することが多いばかりか、性行為を条件として金銭を貸し付けるものであり、公序良俗に反する違法なものですから、これにより貸付金として給付した金銭の返還を請求することはできません

なお、闇金について、最高裁が不法原因給付に該当し、貸付金の元本についても返還義務がないと判断した判例があります。

著しく高利の貸付けという形をとって上告人らから元利金等の名目で違法に金員を取得し,多大の利益を得るという反倫理的行為に該当する不法行為の手段として,本件各店舗から上告人らに対して貸付けとしての金員が交付されたというのであるから,上記の金員の交付によって上告人らが得た利益は,不法原因給付によって生じたものというべきであり,同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として上告人らの損害額から控除することは許されない。

最判平成20年6月10日より引用

まとめ

以上のように、ひととき融資は、違法で悪質なものですので、利用しないように注意をして下さい。

また、利用してしまい、脅されているような場合には、早期に弁護士に相談することをおすすめいたします。

Bio

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。
男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。