「売春は犯罪だ」と思っている人は多いだろう。
しかし、実は「売春・買春行為そのもの」には罰則がない。違法行為ではあるが、それだけでは逮捕されることはないのだ。
売春が犯罪となるのは、売春を助長したり、18歳未満を買春したりした場合に限られる。以下の表は、売春・買春に関連して成立する可能性がある17の犯罪をまとめたものだ。
■売春(買春)で成立しうる17の犯罪
対象 | 犯罪 |
---|---|
売り手側 | 売春の勧誘・客待ち(売春防止法) |
売り手側 | 売春の周旋(売春防止法) |
売り手側 | 困惑等による売春 (売春防止法) |
売り手側 | 前貸し等(売春防止法) |
売り手側 | 売春をさせる契約 (売春防止法) |
売り手側 | 売春場所の提供(売春防止法) |
売り手側 | 管理売春(売春防止法) |
売り手側 | 売春資金等の提供(売春防止法) |
売り手側 | 職業安定法違反 |
買い手側 | 児童買春(児童ポルノ等禁止法) |
買い手側 | 児童買春の周旋(児童ポルノ等禁止法) |
買い手側 | 児童買春の勧誘(児童ポルノ等禁止法) |
買い手側 | 児童ポルノの所持(児童ポルノ等禁止法) |
買い手側 | 児童買春等目的人身売買(児童ポルノ等禁止法) |
買い手側 | 出会い系サイト規制法違反 |
買い手側 | 不同意わいせつ罪(刑法) |
買い手側 | 不同意性交等罪(刑法) |
本記事では、これら17の犯罪について、基本的な内容や逮捕事例、罰則などを解説していく。
売り手側(女性側)に成立する犯罪は1章・2章で、買い手側(男性側)に成立する犯罪は3章・4章で紹介した。
自分の行為が犯罪になるか不安な方は、ぜひ最後まで読み進めてほしい。
売春防止法では売春・買春行為そのものではなく、売春を助長する行為を処罰対象としている。これらの行為は「売春を拡大させる」ため、厳しく取り締まられているのだ
売春の勧誘は、売春防止法第5条で処罰される犯罪だ。公衆の目に触れるような方法で売春相手を勧誘する行為全般が対象となる。
●成立しうるケース
・売春相手を探すために路上で立ちんぼ(客待ち)する
・SNSでの売春相手募集するなど
●罰則
6月以下の拘禁刑又は2万円以下の罰金
売春に関わる犯罪の中で、当事者となる女性に最も成立しやすい犯罪と言われており、以下のような逮捕事例がある。
■売春の勧誘・客待ちの逮捕事例
日付 | 罪名 | 補足 |
---|---|---|
2024年1月〜11月 | 売春防止法違反(勧誘) | 大久保公園周辺で立ちんぼをしたとして、女性88人が逮捕 |
2023年1月〜12月 | 売春防止法違反(勧誘) | 大久保公園周辺で立ちんぼをしたとして、女性140人が逮捕 |
2015年6月 | 売春防止法違反(勧誘) | 「ツイッター」で売春相手を募ったとして、16歳の少女が逮捕 |
売春の周旋は、売春防止法第6条で規制される犯罪だ。売春をする側と買う側の間に立って、両者を結びつけることで成立する。
●成立しうるケース
・女友達に売春相手を紹介する
・風俗店で本番行為を黙認するなど
●罰則
2年以下の拘禁刑又は5万円以下の罰金
売春の周旋(あっせん)で犯罪となりやすいのは、デリヘルやメンズエステなどの経営者だ。実際に、様々なケースで逮捕に至っている。
■売春の周旋(あっせん)の逮捕事例
日付 | 罪名 | 内容 |
---|---|---|
2025年5月 | 売春防止法違反(周旋) | 個室マッサージ店の店長ら9人が、売春勧誘目的の周旋で逮捕 |
2024年6月 | 売春防止法違反(周旋) | 女性を駐車場に派遣して、売春をあっせんした疑いで男性3人が逮捕 |
2020年1月 | 売春防止法違反(周旋) | デリヘルで売春をあっせんして、社長・従業員など19人が逮捕 |
困惑や暴行・脅迫により売春させる行為は、売春防止法7条で規制されている犯罪だ。
欺罔、困惑、親族関係の利用、脅迫、暴行など、様々な方法で売春をさせると成立する。
●成立しうるケース
・ホストの売掛金を理由に、女性客をソープで働かせる
・親子の力関係を利用して、娘に売春させる など
●罰則
3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金
(※脅迫、暴行を加えた者)3年以下の拘禁刑又は3年以下の拘禁刑及び10万円以下の罰金
困惑等による売春は、ホストクラブの従業員などに成立しやすい犯罪だ。売掛金の回収目的で、女性客をソープランドに紹介して逮捕に至るケースが多い。
■ホスト従業員の逮捕事例
売春を目的とした金銭等の貸付行為で成立するのが、売春防止法第8条違反だ。他人と売春をさせる目的で、お金を渡すと成立する犯罪だ。
●成立しうるケース
・他人と売春をさせる目的で、女性にお金を渡す等
●罰則
3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金
なお、自分が売春相手となるためにお金を渡すケースは「単純売春(買春)」となるため、売春防止法第8条違反にはならない。
売春をさせる内容の契約をすると成立する犯罪が、売春防止法第10条違反だ。
最高裁昭和52年3月29日判決では、女性が自由意思で売春契約を結んだ場合も含まれると示されている。つまり、女性が自発的に契約を結んだ場合でも、売春をさせる側は犯罪となりうる。
●成立するケース
・他人と売春をさせることを内容とする契約を女性と結ぶ 等
●罰則
3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金
売春を行う場所を提供すると成立する犯罪が、売春防止法11条違反だ。
「売春が行われる」とはっきり知っている必要はなく、「売春が行われるかもしれないが、それでも構わない」程度の認識でも成立しうる。
●成立するケース
・自分のアパートを売春宿として提供する
・本番行為が常態化しているメンズエステ店にマンションを貸し出す 等
●罰則
3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金
(※業とした者)7年以下の拘禁刑及び30万円以下の罰金
売春場所として使っていたマンションの住人から通報されて、警察の捜査が開始されるようなケースもある。
■売春で使っていたマンションの住人から通報されて、警察の捜査が開始された事例
管理売春は、売春防止法で最も重い犯罪の一つだ。人を自己の占有・管理する場所等に居住させ、業として売春をさせる行為で成立する。
24時間住まわせている必要はなく、勤務時間外は他の場所に住んでいても、実態として支配関係があれば成立する。
●成立するケース
・お金がない女性を支配して、無理やり売春をさせる 等
●罰則
10年以下の拘禁刑及び30万円以下の罰金
実際の逮捕事例としては、以下のようなケースがある。
■管理売春で逮捕された事例
場所の提供業や管理売春業を営む者へ資金・土地・建物を提供すると成立するのが、売春防止法第13条だ。売春ビジネスの援助をすると、直接、売春に関わらなくても、犯罪となりうるのだ。
●成立するケース
・本番が行われている違法な風俗店に資金や場所を提供する 等
●罰則
(場所提供業への提供)5年以下の拘禁刑及び20万円以下の罰金
(管理売春業への提供)7年以下の拘禁刑及び30万円以下の罰金
売春に関わる犯罪は売春防止法違反だけではない。
女性に風俗店などの売春先を紹介すると、「職業安定法違反」などの犯罪が成立する可能性もあるのだ。
■職業安定法
職業安定法第63条第2号では、「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」での職業紹介を禁止している。
ソープランドや本番行為をする違法な風俗店が「有害な業務」にあたることは間違いない。さらに、適法に風営法の届出がされているデリヘル店なども、「有害な業務」にあたると考えられている。
実際に、売掛金の回収目的で女性を風俗店に紹介し、ホストクラブの幹部や風俗スカウトが逮捕されたケースがある。
■職業安定法違反による逮捕事例
ここまで、主に「売り手側」に成立する9つの犯罪をみてきた。次に、「買い手側(男性)」に成立する犯罪を紹介する。
男性が犯罪となるのは、基本的に相手が18歳未満(児童)だった場合だ。以下に成立しうる犯罪をまとめた。
なお、相手が18歳未満だと「知らなかった」という主張は、多くの場合認められない。
年齢を知らなくても、客観的に見て「18歳未満である可能性を認識できたはずだ」と判断されれば、犯罪となるリスクがあるのだ。
過失がなかったと判断されるには、「身分証で18歳以上であることを確認する」などの対策が必要だ。
児童ポルノ禁止法(正式名称:児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)は、性的搾取や性的虐待から18歳未満の児童を守るための法律だ。
「買春罪、周旋罪、勧誘罪、児童ポルノ所持・提供等罪、人身売買等罪」などの5つの犯罪が規定されている。
児童買春罪は、18歳未満の者に対価を渡して性的行為をする犯罪だ。
●成立しうるケース
・18歳未満と知りながら(又は知りうる状況で)金銭を渡して性交する 等
●罰則
5年以下の懲役又は300万円以下の罰金
児童ポルノ禁止法第5条は、18歳未満の児童の買春を仲介・あっせんする行為を禁止している。自分が買春するのではなく、他人に紹介する行為が対象だ。
●成立しうるケース
・買春目的で女子高生(18歳未満)を友人に紹介する
・SNSで児童買春の仲介をする 等
●罰則
5年以下の拘禁又は500万円以下の罰金
(※業とした者は、7年以下の拘禁及び1000万円以下の罰金)
児童買春の周旋をする目的で、人に児童買春をするように勧誘すると成立するのが、児童買春勧誘罪だ。
●成立しうるケース
・児童買春をあっせんする目的で、他人に勧誘する 等
●罰則
5年以下の拘禁又は500万円以下の罰金
※業とした者は、7年以下の拘禁及び1000万円以下の罰金
児童ポルノ所持等罪は、18歳未満の性的な画像や動画を所持・保管すると成立する。買春の際に撮影した画像も対象となる。
●成立しうるケース
18歳未満と援助交際をして、スマホに写真や動画を保存する 等
●罰則
1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
※児童ポルノを提供した者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金
※児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金
児童買春等目的人身売買等罪は、児童買春を目的として人身売買をする行為を処罰する。最も重い処罰が定められている。
●成立しうるケース
児童買春させる目的で18歳未満を売買する 等
●罰則
1年以上10年以下の拘禁
※外国に居住する児童で略取され、誘拐され、又は売買されたものをその居住国外に移送した日本国民は、2年以上の有期拘禁
出会い系サイト規制法(正式名称:インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律)は、出会い系サイトで児童を性的に誘引する行為を規制する法律だ。
性交「そのもの」ではなく、性交等の「相手方となるように誘引すること」が規制されているので、誘引メッセージを送れば(実際に会わなくても)犯罪となりうる。
●成立しうるケース
・出会い系サイトで女子高生(18歳未満)に性的な誘いのメッセージを送る
・SNSで中学生に援助交際を持ちかける 等
●罰則
100万円以下の罰金
未成年以外との買春以外で、男性が犯罪となりうるのが、相手から「同意していなかった」と言われた場合だ。
金銭を払っていても、相手が性的行為に同意をしていなかったり、16歳未満だったりすると、「不同意わいせつ罪・不同意性交等罪」などが成立しうる。
不同意わいせつ罪は、相手の同意なくわいせつな行為をした場合に成立する犯罪だ。
たとえば、パパ活で女性が「お金はもらうけど食事だけ。体は触らせない」と考えていた場合に、男性が勝手に触れば不同意わいせつ罪が成立しうる。
●成立しうるケース
・食事だけ(パパ活)の約束なのに無理やりキスや体を触る
・女子中学生にお金を渡して、キスをしたり身体を触ったりする 等
●罰則
6月以上10年以下の拘禁刑
不同意性交等罪は、相手の同意なく性交やそれに類する行為をすると成立する犯罪だ。
●成立しうるケース
・食事のみ(パパ活)のつもりだった相手に性交を強要する
・お金を払って16歳未満の者と性交する
●罰則
5年以上の有期拘禁刑
中には、男性が「性交前提の売春」と思っており、女性が「食事だけ」と考えているケースもある。このような状態で性行為に及ぶと、金銭を支払っていても不同意性交等罪が成立する可能性がある。
さらに注意すべきなのは、相手が16歳未満だった場合だ。
16歳未満は性交同意年齢に達していないため、本人が同意していても法的に無効となる。つまり、金銭の授受や本人の同意にかかわらず、性交した時点で不同意性交等罪が成立しうる。
■児童買春・不同意性交による逮捕事例
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最後に、記事のポイントをQ&A形式でまとめた。
A.売春も買春も違法行為だが、お金を受け取って(払って)性交をしても、それだけで逮捕されることはない。ただし、売春に関わる様々な行為が処罰対象となっている。
A.主に以下の9パターンだ。
犯罪 | 具体的な行為 |
---|---|
売春の勧誘 | 路上で客待ち・立ちんぼ等をする |
売春の周旋 | 売春相手を紹介・あっせんする |
困惑等による売春 | 困惑や暴行・脅迫により売春させる |
前貸し等 | 売春目的での金銭貸付をする |
売春をさせる契約 | 売春をさせる内容の契約をする |
売春場所の提供 | 売春する場所を提供する |
管理売春 | 管理する場所に居住させて売春させることを仕事とする |
売春資金等の提供 | 売春場所の提供や管理売春を仕事とする人に金や土地・建物を提供する |
職業安定法違反 | 売掛金を回収するために、女性をソープに紹介する |
A.主に以下の8パターンだ。
犯罪 | 具体的な行為 |
---|---|
児童買春 | 18歳未満と知りながら(又は知りうる状況で)金銭を渡して性交する |
児童買春の周旋 | 買春目的で女子高生(18歳未満)を友人に紹介する |
児童買春の勧誘 | 児童買春をあっせんする目的で、他人に勧誘する |
児童ポルノの所持 | 18歳未満と援助交際をして、スマホに写真や動画を保存する |
児童買春等目的人身売買 | 児童買春させる目的で18歳未満を売買する |
出会い系サイト規制法違反 | 出会い系で女子高生(18歳未満)に援助交際を誘う |
不同意わいせつ罪 | パパ活で無理やりキスや体を触る 等 |
不同意性交等罪 | お金を払って16歳未満の者と性交する 等 |
以上だ。
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