「職業安定法違反になるスカウトとはどのような行為?」
「性風俗へのスカウトが職業安定法違反になったときの罰則や量刑相場は?」
「性風俗へのスカウトで逮捕された事例にはどのようなものがある?」
性風俗店に女性をあっせんするなどの行為は、職業安定法違反となり、1年以上10年以下の懲役または20万円以上30万円以下の罰金が科される可能性がある。
最近、スカウトグループのメンバーや幹部などが職業安定法違反で逮捕されたとの報道も増えてきており、違法なスカウト行為の摘発に向けて積極的に動き出しているといえる。
割のいいバイト感覚で違法なスカウト行為に手を染めている人も少なくないが、そのような行為も犯罪であるため、逮捕・起訴される可能性は十分にあるだろう。違法な行為に関与しないようにするためにも、まずはどのような行為が職業安定法違反になるのかをしっかりと理解しておくべきである。
本記事では、
・職業安定法違反になるスカウトとは?
・性風俗へのスカウトが職業安定法違反になった場合の罰則や量刑相場
・性風俗へのスカウトで逮捕された事例
などについてわかりやすく解説する。
万が一、職業安定法違反となる違法なスカウトをしてしまったときは、すぐに弁護士に相談することをおすすめする。
職業安定法とは、求人や職業紹介に関するルールを定めた法律であり、有害業務に就かせる目的での職業紹介や労働者の募集などを禁止している。
具体的には、以下のようなスカウト行為をすると職業安定法で処罰される可能性がある。
●駅周辺で道行く女性に「風俗の仕事に興味ないですか。簡単に稼げるよ」などと声をかけて性風俗店に勧誘する
●モデル志望の女性をアダルトビデオ制作会社に紹介する
●ホストが売掛金回収のため女性客に性風俗や売春の仕事をあっせんする
職業安定法では、「有害業務」に就かせる目的で職業紹介等をする行為が禁止されており、これを一般的に「有害業務目的紹介」と呼ぶ。
職業安定法上の「有害業務」とは、社会一般の道徳観念に反する業務をいい、善良な風俗や労働者保護の観点から判断される。有害業務であるかは具体的な事案ごとに判断されるが、性風俗店、ソープランド、デリヘル、ファッションヘルス、アダルトビデオへの出演などは有害業務にあたるといえるだろう。
このような業務に女性をスカウトすると職業安定法違反に問われる可能性があるため注意が必要だ。
性風俗へのスカウトは、職業安定法が禁止する有害業務目的紹介に該当するため、このような行為をすると職業安定法違反となる。
有害業務目的紹介の罪で起訴され有罪になれば、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金に処せられる。
性風俗へのスカウトで職業安定法違反の罪に問われた場合は、上記の法定刑の範囲で処罰されるが、具体的な量刑相場は定まっていない。
職業安定法違反で有罪になった事案をみると、罰金30万円の事例もあれば罰金100万円の事例もあり、初犯で起訴されて懲役2年執行猶予4年の判決が言い渡された事例もある。
このようにスカウトの職業安定法違反の量刑は、ケースバイケースであるため、自分のケースでどの程度の刑罰が科されるかは、職業安定法違反の事例に詳しい弁護士に相談して確認してみるとよいだろう。
以下では、有害業務へのスカウトが職業安定法違反に問われた裁判例を紹介する。
【事案の概要】
被告人は、無店舗型性風俗特殊営業店「N」の人事を担当しているOに対し、同店が女性従業員に不特定の男性客を相手に手淫、口淫等の性交類似行為をさせる店であることを知りながら、同店の従業員として就業させる目的で、P(当時20歳)を女性従業員として紹介して雇用させ、もって公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介を行ったなど合計4件の職業安定法違反の罪で起訴された。
【裁判所の判断】
被告人らは、各種のマニュアル等を整え、指示役、女性のスカウト役、性風俗店側への紹介役や仲介役等の役割分担のもと、1年余りの間に4回にわたり、スカウト役が街頭で女性に声をかけ、性風俗等の仕事に興味を示した女性については性風俗店に紹介し、これに興味を示さない女性については、その後もスカウト役が繰り返し連絡を取り、一緒に食事をするなどして好意を抱かせて被告人ら運営の飲食店に誘い込み、スカウト役と交際するためには売上に貢献する必要がある旨言ったり、高額の飲食をさせたりした上で、稼げる店があるなどとして半ば強引に勧誘して性風俗店での就労を決意させており、巧妙な手口による組織的かつ職業的な犯行であって、公衆道徳上の有害性も顕著である。そして、被告人は、前記飲食店の経理を担当し、Aらから指示を受けていたとはいえ、性風俗店からの紹介料等を集計して従業員である共犯者らの報酬を計算するなどの重要不可欠な役割を果たしており、スカウト役よりも上位の立場にあったものと認められる。もとより紹介料欲しさなどという利欲的な動機に酌量の余地はない。
以上によれば、本件の犯情はかなり悪く、被告人の刑事責任は相当に重いといわざるを得ない。
しかしながら、他方、被告人は、事実関係をいずれも認めるなどして反省の態度を示していること、前科前歴がないこと、父親が出廷して被告人に対する指導監督を約していることなどの被告人に有利な一般情状も相応に認められることから、被告人に対しては、今回に限り社会内で自力更生する機会を与えることとして、懲役2年6月・執行猶予4年の判決が言い渡された。
【事案の概要】
被告人は、アダルトビデオ女優の紹介、あっせん等を業とする株式会社Bの従業員であった者であるが、アダルトビデオ女優の業務に就かせる目的で、当時19歳の被害者をアダルトビデオ女優として紹介して雇用させ、もって公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介をしたという職業安定法違反の罪で起訴された。
【裁判所の判断】
被告人が行った本件行為は、職業安定法上の職業紹介に該当するとし、未成年者の判断力の未熟さに乗じ、なおかつ、女性の人格を尊重せず、有害な労務に誘導するものであって、強く非難されるべきである。
被告人は、公判廷に至っても、自分は一度面接をしただけであり、その後被害者がアダルトビデオに出演することになるかどうかは分からなかったなどと不合理な、あるいは自己の責任を極力矮小化する発言に終始しており、自身の行為の問題性を省みる姿勢も被害者の心情に思いを致す態度も甚だ不十分であって、その刑責の程を理解させるに足りる科刑が必要である。
一方、被害者の出演したアダルトビデオについては、事後的ではあるもののアダルトビデオ制作会社により流通させない措置が採られたこと、被告人には前科前歴がないことなど被告人にとって酌むことのできる事情も存在する。
そこで、以上の事情を総合考慮した上で、被告人に対して、懲役1年6月・執行猶予4年の判決が言い渡された。
項目 | 内容 | 罰則 |
---|---|---|
組織犯罪処罰法 | 「スカウトバック」で売春の売上の一部を受け取る行為は犯罪収益等収受罪に該当。 | 3年以下の懲役または100万円以下の罰金、またはその両方 |
売春防止法 | 売春の勧誘・斡旋行為は禁止。 例:ホストが売掛金回収のため女性客に売春を斡旋。 | 勧誘:6か月以下の懲役または2万円以下の罰金 斡旋:2年以下の懲役または5万円以下の罰金 |
各都道府県の迷惑防止条例 | 公共の場での風俗・AV等への勧誘禁止。執拗な勧誘も違反となる。 | 50万円以下の罰金または拘留・科料、常習の場合6か月以下の懲役が追加 |
性風俗へのスカウト行為は、職業安定法以外に以下の法令等に違反する可能性がある。
組織犯罪処罰法とは、正式名称を「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」といい、一定の組織犯罪を行った場合の刑罰を重くし、組織犯罪により得られた収益の没収・追徴などを定めた法律である。
性風俗に女性を紹介し、その見返りとして売春の売上の一部を受け取る「スカウトバック」は、組織犯罪処罰法の犯罪収益等収受の罪に該当するため、3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその両方が科される。
売春防止法では、売春の勧誘や斡旋行為が禁止されている。
売春とは、報酬金などの対価を受けまたは対価を受ける約束で、不特定の相手方と性交することと定義されている。たとえば、ホストが売掛金の回収のために女性客に売春の斡旋をするような行為は売春防止法にあたる可能性がある。
売春の勧誘をすると6か月以下の懲役または2万円以下の罰金に処せられ、売春の斡旋をすると2年以下の懲役または5万円以下の罰金に処せられる。
※関連コラム「売春防止法違反で逮捕されないために大事なこと」
各都道府県の迷惑防止条例では、公共の場所において、風俗、キャバクラ、AVなどへの勧誘行為をすることが禁止されている。これらの風俗関連業種以外でも執拗な勧誘行為は、迷惑防止条例違反となる。
具体的な罰則は、都道府県により異なるが、たとえば東京都の迷惑防止条例に違反すると50万円以下の罰金または拘留もしくは科料が科され、常習の場合にはこれに6か月以下の懲役が加わる。
以下では、性風俗へのスカウトで逮捕された実際の事例を紹介する。
風俗スカウトグループ「アクセス」が全国の風俗店に女性を紹介していた事件で、アクセスが契約を結んでいた風俗店は島根県を除く46都道府県の計約1800店舗に上ることが警視庁保安課への取材で分かった。
同課によると、アクセスはグループのメンバー向けに「2チャンネル」と称するサイトを運営。サイトにはアクセスと契約するソープランドやデリヘルなど全国の風俗店約1800店舗の情報が掲載されていた。店ごとに女性の募集条件や報酬、担当者の連絡先などが記載されており、「(店側の)対応がすごく良かった」などとスカウトが口コミを書き込むこともできる仕組みになっていた。
閲覧するにはアクセスの運営側が発行するIDとパスワードが必要で、スカウトは女性を風俗店にあっせんする際にサイトの情報を参考にしていた。
警視庁と石川、大分など5都県警の合同捜査本部は、宇都宮市のソープランドに女性を紹介したなどとして、職業安定法違反容疑で、アクセス代表の容疑者(33)ら4人を再逮捕した。同容疑者の逮捕は7回目でいずれも容疑を認めている。
アクセスは全国の風俗店に女性を紹介し、5年間で計約70億円を得ていたとみられる。警視庁は特別捜査本部を設置し実態解明を進めている。
(引用:時事ドットコムニュース)
女性を風俗店に紹介したとして、警視庁などは、職業安定法違反(有害業務紹介)の疑いで、ともに国内最大規模のスカウトグループ「ナチュラル」メンバーの会社員の男性(32)、職業不詳の男性(27)を逮捕した。認否は明らかにしていない。
同庁暴力団対策課によると、ナチュラルは2009年ごろ、東京・歌舞伎町を中心に活動を開始。全国でメンバーは一時約1500人に上り、年間約50億円を得ていたとみられる。同課は、これらの資金の一部が暴力団に流れた可能性を視野に、全容解明を目指す。
警視庁は同日、ナチュラルの関係先として、数都県の風俗店など数十カ所を一斉捜索した。
2人の逮捕容疑は23年7月~24年3月ごろ、台東区のソープランドと富山市のデリバリーヘルス店にそれぞれ30代女性を紹介した疑い。
捜査関係者によると、ナチュラルは街で声を掛けてスカウトした女性を、風俗店やキャバクラなど全国の数千店舗に違法にあっせんし、「スカウトバック」と呼ばれる紹介料を店側から得ていた。
スカウトバックを巡っては、警察庁が今国会で規制などを盛り込んだ風営法改正案を提出する見通し。
(引用:時事ドットコムニュース)
2025年3月7日、悪質なホストクラブへの対策などをまとめた風営法の改正案が閣議決定された。
改正風営法では、性風俗店がスカウトバックを支払う行為を新たに規制対象としている。これにより在籍する風俗店のキャストが友達を風俗店に紹介した場合に紹介料を支払う、紹介の見返りとして報酬を上乗せするなどの利益提供は、このスカウトバック禁止規制に抵触するため注意が必要だ。
スカウトバック禁止規制に違反した場合、6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されることになる。
なお、政府は、2025年の通常国会での改正風営法の成立を目指しており、成立した場合、交付から1か月後に施行となる見込みである。
性風俗店へのスカウトは、職業安定法や都道府県迷惑防止条例、組織犯罪処罰法などに違反する違法な行為であるため、逮捕されれば起訴されて有罪になる可能性が高い。風営法改正により性風俗店へのスカウトバックが禁止されるなど、悪質なスカウトの撲滅に向けた動きが強くなっているため注意が必要である。
万が一、違法なスカウト行為をしてしまった場合には、すぐにグラディアトル法律事務所まで連絡してもらいたい。当事務所では、ナイトビジネス業界で全国1000件以上の解決実績があり、500店舗以上の風俗店の顧問弁護士を担当しているなど、ナイトビジネス業界に特化した弁護士事務所といえる。性風俗店へのスカウトなどの職業安定法違反の弁護経験も豊富であるため、少しでも有利な処分を獲得したいなら、ぜひ当事務所の弁護士に任せてもらいたい。
当事務所では、24時間365日受付をしているため、深夜にスカウト行為をして逮捕されたという場合でも対応が可能だ。刑事事件はスピード勝負といわれるように初動対応の早さがポイントになるため、一刻も早く当事務所まで連絡してほしい。
性風俗店へのスカウトは、職業安定法違反などに問われる可能性のある違法な行為である。近年、悪質なスカウト撲滅の流れが強くなっているため、このような違法なスカウト行為をするとすぐに検挙されてしまう可能性が高い。
違法なスカウト行為で逮捕されてしまったときは専門家である弁護士のサポートが不可欠であるため、まずはグラディアトル法律事務所まで相談してもらいたい。