「キャバクラの罰金制度とはどのようなもの?」
「キャバクラでよくある罰金制度の具体例を知りたい」
「キャバクラ経営者が罰金制度を導入する際にはどのような点に注意が必要?」
キャバクラでは、キャストの遅刻や欠勤、風紀違反への制裁として罰金制度を導入している店舗も少なくない。罰金制度を設けることでキャストの気を引き締めて、責任感をもって働いてもらえるなどのメリットがあるが、罰金制度の設計や運用の仕方によってはキャストとのトラブルが生じたり、違法と判断されるリスクがあるため注意が必要である。
本記事では、
・キャバクラにおける罰金制度とは
・キャバクラでよくある罰金制度の具体例
・キャバクラ経営者が罰金制度を導入する際の注意点
などについて詳しく解説する。
キャバクラの罰金制度に関する制度設計を誤らないためにも、正しい知識を身につけておくことが重要である。
キャバクラのようなナイトワーク業界では、「罰金制度」を設けている店舗が多い。
キャバクラにおける罰金制度とは、遅刻や欠勤、ドタキャン、ノルマ未達成、風紀違反といった行為に対して、一定額の金銭的ペナルティを科す制度である。このような罰金制度は、主に、以下のような目的で導入されている。
・キャストに責任感をもって働いてもらうため
・職場の風紀を維持するため
キャバクラは、短時間で十分な収入が見込みるため、安易な気持ちで始める人も多いのが実情である。遅刻や無断欠勤が続くとお店の運営にも影響を与えることから、売り上げと人材を安定して確保するためにこのような罰金制度が設けられている。
ただし、このような罰金制度には法的なリスクも存在するため、キャバクラの経営者は、罰金制度が違法にならないように正しい知識を身につけるようにしてほしい。
キャバクラの罰金にはさまざまな種類が存在する。以下では、キャバクラの代表的な罰金制度を紹介する。
キャストが出勤時間を守らず遅刻した場合、「遅刻による罰金」が科される。
遅刻による罰金は、遅刻した時間に応じて罰金額が変動するケースが多い。
遅刻による罰金の例
・10分遅刻……2000円程度の罰金
・30分遅刻……5000円程度の罰金
ナイトビジネス業界は、時間にルーズな人も多いため、勤怠管理を徹底する目的で導入されている罰金である。
キャストが店に連絡をすることなく無断で欠勤をした場合、「無断欠勤による罰金」が科される。
キャストが無断欠勤をすると営業に必要なキャストを確保できず、その日の営業に著しい支障が生じることから、1万円以上の高額な罰金を科されることも珍しくない。
キャストが出金当日に休みの連絡を入れて欠勤をした場合、「当日欠勤による罰金」が科される。
欠勤の連絡を入れているという点で無断欠勤よりも悪質性が低いものの、当日欠勤は店の営業に支障が生じるため、やはり罰金の対象となるケースが多い。
ただし、急な体調不良や家族の事情などやむを得ない理由があるケースでは、罰金を免除しているところもある。
女性キャストが男性スタッフと恋愛関係になった場合、「風紀違反による罰金」が科される。
キャバクラでは女性キャストと男性スタッフとの交際を禁止している店がほとんどである。これは、仕事とプライベートの区別ができず業務に支障をきたすことがあり、キャストを指名する客に交際関係が知られると、客足が遠のくリスクがあることがその理由である。
風紀違反による罰金額は、他の違反行為よりも高額で、50~100万円程度の罰金額が設定されているところが多い。
キャストが店の定めた売り上げや指名・同伴のノルマを達成できなかった場合、「ノルマ未達成による罰金」が科される。
ノルマ未達成による罰金は、キャストの向上心を促し、店舗全体の売上向上を図ることを目的として導入されている罰金である。しかし、ノルマ未達成による罰金を重荷に感じるキャストも少なくないため、罰金ではなくインセンティブという形で支給するケースもある。
キャバクラの罰金制度は店側にメリットの大きい制度であるため、多くのキャバクラにおいて罰金制度が導入されている。しかし、罰金制度の有効性を考えるにあたってキャストの「労働者性」が重要なポイントとなる。
女性キャストが労働基準法上の「労働者」に該当する場合、キャバクラの罰金制度は違法である。
労働基準法16条は、労働契約において労働者に違約金や損害賠償金の支払いを予定することを禁止している。キャバクラの罰金制度は、労働基準法が禁止する違約金の定めにあたるため、労働基準法違反となる。
女性キャストが労働基準法上の「労働者」に該当する場合、労働基準法が適用されるため、罰金制度が違法になるが、「労働者」ではなく個人事業主と判断されれば労働基準法は適用されず罰金制度も有効となる。
そのため、キャバクラで罰金制度を導入する際には、女性キャストが「労働者」に該当するかどうかが重要なポイントとなる。
キャバクラの女性キャストの労働者性は、契約の形式(雇用契約or業務委託契約)ではなく実際の労働実態に基づいて判断することになる。具体的には、女性キャストと店(使用者)との間に指揮命令関係が存在するかどうかが判断のポイントとなり、主に以下の要素から判断される。
✓ シフトの決定権が店舗側にあるか
✓ 接客内容に対して店舗の細かな指示があるか
✓ 時間拘束が強いか
✓指名や同伴の目標が事実上のノルマとされているか
✓ 店舗の備品を使用しているか
✓ 報酬が源泉徴収されているか
キャバクラの女性キャストの労働者性の判断については、いくつかの判例があり、具体的な事案に応じて判断が分かれている。経営するキャバクラのキャストが「労働者」にあたるかどうかを正確に知りたいなら、弁護士に相談するのがおすすめである。
【事案の概要】
本件は、キャバクラ等の飲食店を経営する原告会社が、従業員である被告キャストに対し、私的交際の禁止に違反したことを理由に、違約金および損害賠償の支払いを求めた事案である。
原告は、店舗の風紀維持と営業上の損害を防ぐ目的で、全従業員に対し「私的交際の絶対禁止」および違反時の違約金200万円の支払いを定めた同意書(以下「本件同意書」)への署名を求めていた。被告もこれに同意し、署名して勤務していた。
しかしながら被告は、勤務先のクラブの副店長と私的な交際を開始し、本件同意書の内容に違反。原告に交際の事実が発覚した後、被告は罰金徴収を猶予してもらう代わりに、交際に関する4つの約束を内容とする始末書を提出した。
ところがその後、被告は始末書の内容にも違反し、交際を他の従業員に相談し、報告義務を怠り、交際相手と街中を歩くなどの行動を続けたため、原告は猶予を撤回し、違約金200万円の一部である100万円の請求に踏み切った(雇用契約の債務不履行に基づく違約金)。
さらに、原告は、被告の交際によって店舗の売上が減少し、業務負担も増大したとして、不法行為に基づく損害賠償100万円の一部として40万円を請求した(不法行為に基づく損害賠償請求)。
【裁判所の判断】
①雇用契約の債務不履行に基づく違約金請求について
原告と被告が雇用契約を締結し、被告が「私的交際禁止」および違反時に違約金200万円を支払う旨の同意書に署名した事実自体には争いがなかった。
しかしながら、このような同意書の内容は、労働契約における違約金の定めを禁止する労働基準法第16条に違反しており、法的に無効とされた。また、交際の自由という個人の基本的権利を不当に制限するものであり、公序良俗にも反するとして無効とされた。
さらに、被告が署名した始末書の違反を理由とする違約金請求についても、あくまで無効な同意書を前提とした主張に過ぎず、根拠とはならない。
よって、雇用契約上の債務不履行を理由とした違約金請求は認められなかった。
②不法行為に基づく損害賠償請求について
原告は、被告の私的交際が店舗の営業に損害を与えたとして不法行為に基づく損害賠償も主張した。
しかし、私的交際は本来的に個人の自由であり、被告が交際を通じて意図的に原告に損害を与えるような特別な事情も認められなかった。したがって、不法行為とはいえず、損害賠償請求も認められなかった。
③結論
裁判所は、原告の請求をすべて退け、原告敗訴(請求棄却)の判決を下した。
注意点 | 概要 |
---|---|
契約関係の確認 | 女性キャストが業務委託契約であることを実態も含めて確認。労働者性があると罰金は無効となる可能性あり。 |
同意書の取得 | 罰金制度の条件や金額を明記した同意書を契約時に交わし、キャストの署名を得る。 |
公序良俗の配慮 | 金額が過大であったり、曖昧な条件による罰金は無効リスクあり。合理性・明確性・妥当性が重要。 |
キャバクラの罰金制度は、上記のように無効になるリスクもあるため、罰金制度を導入するにあたっては以下の点に注意が必要である。
女性キャストが労働基準法上の「労働者」に該当すると、罰金制度が無効になる可能性があるため、まずは、女性との契約関係が業務委託であることを確認する必要がある。
ただし、労働者性の判断は、契約書の文言だけでなく、実態に即して判断するため契約書を作成し直すだけでは対策として不十分である。女性キャストの労働者性を見極めるには、法的観点からの検討が不可欠となるため、一度弁護士に相談することをおすすめする。
罰金制度を導入する場合は、業務委託契約の一部として、適用条件や金額を明記した同意書を作成し、キャストから署名を得ておくことが重要である。
罰金制度の概要や適用条件が曖昧なままだと、実際にキャストに罰金を科す際にトラブルになる可能性がある。あらかじめ同意書にサインしてもらうことで後々のトラブル防止につながる。
罰金が高額すぎたり、罰金を科す理由が曖昧だと公序良俗違反として契約の一部が無効と判断されるおそれがある。
罰金の金額や適用条件については、合理性・明確性・妥当性の3点を意識して設計することが求められる。
キャバクラの罰金制度は、キャストに責任感をもって働いてもらう、職場の風紀を維持するという点では非常に有効な制度といえる。
しかし、罰金制度の導入や運用には、労働法・契約法・風営法など、複数の法分野の知識が必要である。また、裁判例のように、実態と異なる契約形態が重大な法的リスクを招くこともある点に注意が必要である。キャストとの間で罰金に関するトラブルを回避するには、あらかじめ専門家である弁護士に罰金制度の制度設計や運用のアドバイスやサポートをしてもらうべきである。
グラディアトル法律事務所では、グラディアトル法律事務所は、東京と大阪の2拠点を中心に活動しており、ナイトビジネス業界で全国1000件以上の解決実績がある。また、グラディアトル法律事務所では、500店舗以上の風俗店の顧問弁護士を担当しており、ナイトビジネス業界に特化した弁護士事務所といえるだろう。
キャバクラ業界に精通した弁護士が在籍しており、制度設計の段階から法的チェックやアドバイスを行っている。トラブルを未然に防ぎ、健全な店舗運営を続けるためにも、ぜひ一度ご相談いただきたい。
キャバクラの罰金制度の有効性は、キャストの労働者性に大きく左右されるため、契約形態の確認、同意書の整備、公序良俗に違反しない制度設計が不可欠である。それには、法律の専門家である弁護士によるアドバイスやサポートが必要になるため、まずはグラディアトル法律事務所まで相談してもらいたい。