「ホストクラブに対して風営法ではどのような規制があるの?」
「ホストクラブを開業するための風営法上の許可とは?」
「改正風営法を受けてホストクラブが気を付けるべきポイントを知りたい」
ホストクラブの経営・運営にあたっては、風営法のルールに従わなければならない。特に、ホストクラブは接待を伴う営業形態であるため、風営法の中でも「風俗営業(1号営業)」に該当するため、営業許可の取得や営業時間の制限、従業員管理などさまざまな規制を受けることになる。
さらに、最近話題になっている悪質ホストクラブ問題を受けて、風営法が改正されたため、ホストクラブの経営者の方は、改正風営法の内容にも留意した上で営業をしていかなければならない。知らずに風営法違反を犯してしまうと、営業停止や刑事処分を受けるリスクがあるため十分に注意が必要である。
本記事では、
・ホストクラブの開業に必要な風俗営業(1号営業)の許可条件
・風営法で定められたホストクラブの営業に関する基本的なルール
・【風営法改正】悪質ホストクラブ問題を受けて気を付けるべきポイント
などについて詳しく解説する。
法令遵守の意識を高め、健全なホストクラブ経営を行うためにも、ぜひ最後までご覧いただきたい。
ホストクラブでは、来店した客に対してホストが「接待」を行い、飲食の提供を行っている。このような営業形態は、風営法における「風俗営業」に該当し、その中でも「接待飲食等営業」に分類される「1号営業」としての規制を受けることになる。
そのため、ホストクラブを開業するためには、風俗営業(1号営業)許可を得る必要があり、これを得ずに営業をすると無許可営業に該当し、風営法違反として厳しい処分を受けることになるため注意が必要である。
また、最近はホストクラブに通う女性客が多額の売掛金を抱えて、返済のために売春や性風俗店での勤務を強いられるという、いわゆる「悪質ホストクラブ問題」が深刻な社会問題となっている。これを受けて2025年5月20日、改正風営法が衆院本会議で可決、成立した。改正風営法では悪質ホストクラブ問題を取り締まる目的で新たな規制や罰則強化などが盛り込まれているため、ホストクラブ経営者としては改正風営法の内容を踏まえた運営体制の整備が求められる。
ホストクラブを開業するには、「風俗営業(1号営業)」の許可を取得する必要がある。風俗営業(1号営業)許可の条件には、大きく分けて「人的要件(誰が営業するのか)」、「場所的要件(どこで営業をするのか)」、「構造的要件(どのような店舗か)」という3つの基準がある。
以下では、それぞれの基準について説明する。
以下のいずれかの条件に該当する人は、風俗営業の許可を受けることはできない。
①破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
②1年以上の懲役若しくは禁錮の刑に処せられ、又は一定の罪を犯して1年未満の懲役若しくは罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
③集団的に、又は常習的に暴力的不法行為等を行うおそれのある者
④アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者
⑤精神機能の障害により風俗営業の業務を適正に実施するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者
⑥風俗営業の許可を取り消されて5年を経過しない者
⑦風俗営業の取消処分に係る聴聞の期日等の公示日から取消し等の決定をする日までの間に、許可証を返納した者で、当該返納の日から起算して5年を経過しないもの
⑧⑦の規定する期間内に合併により消滅した法人又は許可証を返納した法人
⑨⑦の規定する期間内に分割により、聴聞に係る風俗営業を継承させ、若しくは分割により、当該風俗営業以外の風俗営業を継承した法人
⑩営業に関して成年者と同一の能力を有しない未成年者
⑪法人の役員、法定代理人が上記①から⑤までに掲げる事項に該当するとき
なお、2025年5月20日、改正風営法が衆院本会議で可決、成立した。これにより風俗営業の欠格事由の範囲が拡大し、以下の欠格事由が追加されることになった。
・親会社等が許可を取り消された法人
・警察による立入調査後に許可証の返納(処分逃れ)をした者
・暴力的不法行為等を行うおそれがある者がその事業活動に支配的な影響力を有する者
これによりホストクラブのグループ店舗も欠格事由に該当し、グループ会社や関連会社の許可が取り消される可能性がある点に注意が必要である。
以下のいずれかの地域に該当する場所では、風俗営業の許可を受けることはできない。
・第1種低層住居専用地域
・第2種低層住居専用地域
・第1種中高層住居専用地域
・第2種中高層住居専用地域
・第1種住居地域
・第2種住居地域
・田園住居地域
・準住居地域
ただし、これらの地域に該当しない場所であっても、お店の場所から半径100m以内に「保護対象施設」(学校、図書館、児童福祉施設、病院、診療所)がある場合、その場所では風俗営業の許可は受けられない。
風俗営業の許可を受けるには、構造・設備に関して営業区分に応じた以下の要件を満たす必要がある。
✓ 客室の床面積が1室16.5㎡以上(和室の場合は1室9.5㎡以上)とすること
✓ 客室の内部が店の外部から容易に見通すことができないこと
✓ 客室の内部に見通しを妨げる設備を設けないこと
✓ 善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けないこと
✓ 客室の出入口に施錠の設備を設けないこと
✓ 店舗内の照度(明るさ)が5ルクス以下とならないように維持されるため必要な構造又は設備を有すること
✓ 騒音又は振動の数値が条例で定める数値に満たないように維持されるため必要な構造又は設備を有すること
✓ ダンスをするための構造又は設備を有しないこと
ホストクラブを開業するには、所轄の公安委員会から風俗営業(1号営業)許可を取得する必要がある。風俗営業許可の取得には複数のステップがあるため、段階を踏んで準備を進めていくことが大切である。
以下では、ホストクラブが風俗営業(1号営業)許可を取得するまでの基本的な流れを説明する。
まずは、ホストクラブを開業する予定地を管轄する警察署に事前相談を行う。
警察署での事前相談では、申請の具体的な手続きや必要書類の説明を受けられるため、あらかじめ申請者の要件や営業予定場所、店舗の構造などが風営法に適合しているかどうかを確認しておくことで、今後の手続きをスムーズに進めることが可能になる。
風営法の1号営業許可を取得してホストクラブを開業するには、以下の申請書類を作成・準備しなければならない。
①許可申請書
②営業の方法を記載した書類
③営業所の使用について権原を有することを疎明する書類
④営業所の平面図及び営業所の周囲の略図
⑤住民票の写し
⑥人的欠格事由に該当しない旨の誓約書
⑦市町村の発行する身分証明書
⑧法人の場合は、定款・法人に係る登記事項証明書及び役員に係る上記⑤から⑦までの書面
⑨管理者を選任する場合は、選任する管理者の誓約書、上記⑤から⑦までの書面
⑩管理者の写真2枚
申請書類の作成・準備が整ったら、それを所轄の警察署の窓口に提出して、風俗営業の許可申請を行う。警察では、申請書類に不備がないかをチェックし、問題がなければ申請が受理されて正式な審査がスタートする。
なお、風俗営業の許可申請にあたっては、申請手数料として2万4000円の支払いが必要である。
風俗営業許可の審査の一環として、実際の店舗に警察官等が出向いて現地調査(実地検査)が行われる。現地調査では、申請時の図面が現況と一致しているかどうか、構造基準に違反していないかなどがチェックされる。
現地調査で不適合箇所が見つかると、修正や再検査が必要になり、当初のスケジュール通りに開業するのが難しくなるため、設計段階から風営法に適合する構造を整えることが重要である。
現地調査に合格し、審査が完了すれば公安委員会から正式に風俗営業許可証が交付され、ホストクラブの営業が可能となる。
風俗営業許可を取得することで適法にホストクラブの営業が可能になるが、風営法ではホストクラブの営業に関してもさまざまなルールが設けられている。風営法を遵守した健全なホストクラブ運営を行うためにも、以下のようなルールを理解しておくことが大切である。
ホストクラブを営業するには、風俗営業(1号営業)許可の取得が必要である。
風俗営業許可を取得する前にホストクラブを開業すると無許可営業として風営法違反となる。すでに許可申請済みであっても正式に「風俗営業許可証」が交付されるまでは、適法に開業ができない状態であるため、このタイミングでの営業は無許可営業になってしまう。
そのため、ホストクラブを開業するなら、必ず風俗営業許可証の交付を受けた日以降にしなければならない。
風俗営業(1号営業)に該当するホストクラブは、午前0時から午前6時までの深夜営業が禁止されている。
少しでも売り上げを伸ばしたいからといって深夜時間帯に営業をすると、競合店や客からの密告で警察にバレてしまい、営業停止命令を受ける可能性が高くなるため注意が必要である。経営者が店舗に常駐しないなら、従業員に対して閉店時間の管理を徹底するべきである。
風営法では、ホストクラブへの18歳未満の未成年者の立ち入りを禁止している。ホストクラブの入り口には、18歳未満の立ち入りを禁止する旨の掲示を行い、未成年者である疑いがある客に対しては、入店時の身分証明書の確認を徹底することが重要である。
また、風営法では、ホストクラブの従業員として18歳未満の未成年者を雇うことも禁止している。ホストの採用にあたっては必ず顔写真付きの身分証明書の提示を求めて、年齢確認を行うようにするべきである。
年齢確認を徹底せずに未成年者と入店・雇用すると風営法違反となり責任を問われる可能性があるため注意しなければならない。
ホストクラブでは、従業員の氏名・住所・生年月日などを記載した従業員名簿を作成し、店舗に備え付ける義務がある。
警察の立ち入り検査では、従業員名簿の有無・内容が確認されるため、きちんと備え付けておくことが必要である。
風営法では、以下のような客引き行為を禁止している。
・相手を特定して店の客として来るように勧誘する行為
・勧誘のために相手の進路に立ちふさがる行為
・勧誘のために相手につきまとう行為
ただし、不特定多数への呼びかけは風営法が規制する客引きには該当しないため、不特定多数の通行人に声をかけ、積極的に店に誘うことは可能である。
ホストクラブに通う女性客が多額の売掛金を抱えて、返済のために売春や性風俗店での勤務を強いられるという、いわゆる「悪質ホストクラブ問題」を受けて2025年5月20日、改正風営法が衆院本会議で可決、成立した。
以下では、ホストクラブにとって重要となる3つの改正点を説明する。
ホストクラブは、風営法の「接待飲食営業」に該当するが、改正風営法では接待飲食営業を対象として、以下の遵守事項と禁止事項が新たに設けられた。
【遵守事項】
・料金の虚偽説明の禁止
・恋愛感情を利用した色恋営業の一部禁止
・注文していないドリンクなどの提供禁止
これらの遵守事項に違反したとしても罰則は適用されないが、行政処分の対象となる。
【禁止事項】
・売掛金を支払わせる目的で威迫、困惑させる行為
・威迫等をして料金支払等のための売春、風俗、AV出演等の要求
これらの禁止事項に違反すると6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金またはこれらが併科され、行政処分の対象にもなる。
改正風営法では、無許可営業・名義貸し・メンズエステ禁止区域営業などの違反行為に対する罰則が強化されている。
区分 | 改正前風営法 | 改正風営法 |
---|---|---|
個人に対する罰則 | 2年以下の懲役または200万円以下の罰金または併科 | 5年以下の懲役または1000万円以下の罰金または併科 |
法人に対する罰則 | 200万円以下の罰金 | 3億円以下の罰金 |
改正前風営法は、「2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金またはこれらの併科」が定められていたが、多額の売上のあるホストクラブでは罰金額が少なすぎて、罰則として不十分との指摘がなされていた。
そこで、改正風営法では、無許可営業等の違反行為に対する罰則を強化し、「5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこれらの併科」という罰則が適用されることになる。
特に、法人に対しては、3億円以下の罰金が適用されるなど大幅な罰金強化となっている点がポイントである。
改正風営法では、風俗営業から不適格者を排除する目的で、欠格事由が拡大されている。
具体的には、従来の欠格事由に加えて以下の事由が追加されることになった。
・親会社等が許可を取り消された法人
・警察による立入調査後に許可証の返納(処分逃れ)をした者
・暴力的不法行為等を行うおそれがある者がその事業活動に支配的な影響力を有する者
これによりホストクラブのグループ店舗も欠格事由に該当し、グループ会社や関連会社の許可が取り消される可能性がある点に注意が必要である。
ホストクラブを運営するにあたっては、風営法による厳格な規制を常に意識しなければならない。特に、風営法は改正のたびに細かい規定や要件が追加されており、知らずに違反行為をしてしまうリスクが常に存在するため、最新の法令を踏まえた対策が重要である。
また、風営法違反が発覚すれば、営業停止や許可取消といった重大な処分を受ける可能性があるだけでなく、刑事責任を問われるケースもある。
このようなリスクを最小限に抑えるためには、風営法に精通した弁護士に相談し、法的なサポートを受けることが重要だ。
グラディアトル法律事務所は、東京と大阪の2拠点を中心に活動しており、ナイトビジネス業界で全国1000件以上の解決実績がある。風営法違反に関する刑事弁護の経験も豊富である。
また、グラディアトル法律事務所では、500店舗以上の風俗店の顧問弁護士を担当しており、ナイトビジネス業界に特化した弁護士事務所といえるだろう。トラブル対応だけではなくトラブル予防にも力をいれているため、実際にトラブルが生じていなくても気軽に相談してもらいたい。
ホストクラブを経営・運営するにあたっては、「風俗営業(1号営業)」の許可取得が不可欠であり、その後の営業にも多くの風営法上のさまざまなルールを遵守する必要がある。
特に、最近は悪質ホストクラブの問題を背景に風営法が改正され、新たな規制や罰則強化が盛り込まれため、最新の法令を理解しておかなければならない。
健全なホストクラブ経営を行うには、風営法を正しく理解し、適法な経営体制を整えることが重要となるが、それには法律の専門家によるサポートが有効である。
風営法に関する不安や疑問がある方は、ぜひ一度、グラディアトル法律事務所まで相談してもらいたい。