「カラオケボックスの営業を始める際に風営法の許可は必要?」
「カラオケで風営法の許可や届出が必要になるケースとは?」
「店舗にカラオケを設置する際に風営法上気を付けるべき点とは?」
飲食店にカラオケを設置することで滞在時間や客単価が上がるなど経営上のメリットも大きいため、カラオケの設置を検討しているという方もいるだろう。カラオケが設置されている代表的な店としてはスナックやガールズバーなどがあるため、風営法の許可や届出が必要になるようにも思えるが、実はカラオケを設置するだけであれば風営法の許可や届出は必要ない。
ただし、カラオケを設置してスタッフが客とデュエットをすれば接待行為にあたり、風俗営業1号営業許可が必要となり、深夜にお酒を提供して営業者側がカラオケ大会を開くような場合なら特定遊興飲食店営業許可が必要になるなど、カラオケの利用方法によっては風営法の許可が必要になることもある。
本記事では、
・カラオケで風営法の許可や届出が必要になるケース
・カラオケを設置する際の風営法上の注意点
・カラオケに関する営業が風営法に違反した場合のリスク
などについてわかりやすく解説する。
カラオケの設置と風営法の規制との関係は一般の方ではわかりにくいところも多いため、少しでも疑問があるときは風営法に詳しい弁護士に相談するべきであろう。
カラオケを設置する代表的な施設としては、カラオケボックスが挙げられるが、カラオケボックスを開業する際には、風営法の許可は不要である。
風営法では、カラオケの設置を直接規制しているのではなく、カラオケの利用方法について規制しているため、一般的なカラオケボックスであれば風営法上の許可を得ることなく開業・営業することが可能である。
ただし、後述するような営業形態でカラオケを設置するのであれば風営法上の許可や届出が必要になるため、具体的な業態に応じて適切な手続きを行わなければならない。
カラオケで風営法の許可や届出が必要になる主なケースとしては、以下の3つが挙げられる。
カラオケスナックやカラオケバーでは、ママやキャストとデュエットを楽しんだり、手拍子により盛り上げてもらうなどの「接待行為」をすることが多い。このような接待行為をする場合、風営法の風俗営業に該当するため風俗営業の許可(1号営業)が必要になる。
接待行為とは、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」と風営法上定義されている。これだけでは漠然としてイメージが湧きにくいが、風営法解釈運用基準では、「接待」に関して、以下の基準が示されている。
・客が飲食以外のサービス(会話や疑似恋愛)を期待して来店すること
・特定の客やグループ客に対する会話やサービスが提供されること
・キャストが積極的に会話やサービスを提供すること
これを踏まえると以下のような行為が風営法上の「接待」に該当する可能性がある。
・客とカラオケをデュエットする
・特定少数の客に対してダンスや歌唱を披露する
・特定の客にカラオケで歌うよう勧める
・カラオケで合いの手を入れたり、手拍子をして盛り上げる
DJバーやナイトクラブでは、客に対して「接待行為」をしないものの午前0時から6時までの深夜時間帯にお酒を提供してカラオケをさせることがある。このような営業をするには、風営法の特定遊興飲食店営業の許可が必要である。
特定遊興飲食店営業の許可が必要になるかどうかの基準は、以下の3点である。
①深夜(午前0時から6時まで)に
②お酒を提供するか
③「遊興」に該当するサービスがあるか
なお、「遊興」とは、営業者の積極的な働きかけにより客に遊び興じさせる行為と定義されており、不特定多数の客にカラオケを勧めたり、客がカラオケを楽しめるように演出する行為がこれにあたる。単に、客がカラオケをしているだけではこれには該当しない。
1号営業の「接待行為」が特定の客に対して向けられているのに対して、特定遊興飲食店営業の「遊興」は不特定の客に対して向けられているのがポイントである。
カラオケ居酒屋では、深夜時間帯にお酒を提供しているものの、「接待行為」や「遊興」などはなく、客が勝手にカラオケを楽しむスタイルが一般的である。このような営業をする場合には、風営法の許可は不要である。
深夜に酒を提供するため、には深夜酒類提供飲食店営業の届出はが必要である。
なお、深夜時間帯にお酒を提供しないのであれば、風営法上の許可や届出は不要で、食品衛生法に基づく飲食店営業許可があれば営業することができる。
カラオケを設置する際には、風営法上以下の点に注意が必要である。
カラオケを設置する際には、騒音や振動にも配慮が必要である。
騒音や振動の規制については、風営法により大枠が決められており、詳細については各都道府県の条例により定められている。たとえば、東京都であればカラオケなどの音響機器の音が漏れないように防音措置を講じていない限り、午後11時から翌午前6時までの使用が禁止されている。騒音や振動により近隣住民から苦情があると警察による摘発の対象となるため注意が必要である。
カラオケを設置するだけであれば風営法の許可は必要ないが、接待行為をするなら風俗営業(1号営業)の許可が必要になる。スタッフがタンバリンや手拍子をするだけでも接待扱いになるため注意が必要である。
風俗営業の許可を得ることなくカラオケで接待行為をすると、無許可営業として風営法違反となり、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される。実際にカラオケ居酒屋の経営者が無許可営業で逮捕された事例としては、以下のようなものがある。
大阪市西成区で無許可で男性客の接待をさせたとして、大阪府警西成署は、カラオケ居酒屋「エンジェル」の経営者ら中国籍の29歳の女2人を風営法違反(無許可営業)の疑いで逮捕したと発表した。同区内には250店以上のカラオケ居酒屋があるといい、他店でも同様の営業をしていないか、署が警戒を強めている。
署によると、逮捕容疑は、無許可で20代の女性従業員に男性客の横で酒をついだりカラオケでデュエットしたりする接待をさせたというもの。2人の認否は明らかにしていない。
カラオケ居酒屋はカウンターから従業員が飲食を提供しカラオケを歌える飲食店だが、「接待行為」には風営法の許可が必要だ。
同店の客と従業員がカラオケでデュエットする様子を署員が目撃。その後、署が立ち入り指導をしたが、同様の営業を続けていたという。
(引用:朝日新聞)
カラオケを設置する店が風俗営業に該当する場合、風営法により午前0時から6時までの深夜営業が禁止される。
接待行為などを伴わない店であれば特定遊興飲食店営業の許可または深夜酒類提供飲食店営業の届出をすることで深夜営業も可能になるが、許可や届出を怠っていると無許可営業や無届営業で摘発されてしまうため注意が必要である。
風俗営業(1号営業)の許可を得てカラオケスナックやカラオケバーを営業する場合、構造的要件を満たしていなければならない。
1号営業許可を取ったのに客席を細かく区切ったり、照度を基準以下に落とした演出照明にすると無承認構造変更に該当し、風営法違反となる。
風営法の許可や届出が必要であるにもかかわらず無許可・無届で営業をするなど風営法違反を犯してしまった場合、以下のようなリスクが生じる。
カラオケに関する営業が風営法に違反した場合、風営法違反で検挙・摘発され、経営者は逮捕・起訴され、罰金や懲役刑などの刑事処分を受ける可能性がある。
カラオケに関する営業の主な違反行為と罰則には、以下のようなものが挙げられる。
違反行為 | 具体例 | 法定刑 |
---|---|---|
無許可営業 | ・1号営業の許可なく従業員と客がデュエット ・特定遊興飲食店営業の許可なく深夜にお酒とカラオケ提供 | 2年以下の懲役または200万円以下の罰金、または併科 |
無届営業 | 深夜にお酒を提供するのに、深夜酒類提供飲食店営業の届出をしていない | 50万円以下の罰金 |
無承認構造変更 | 事前承認なしで構造・設備の変更を行った | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金、または併科 |
なお、風営法の無許可営業に関しては、2025年3月7日に閣議決定された改正風営法により罰則が大幅に強化されている点に注意が必要である。
改正前の風営法では、無許可営業に対して「2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金またはこれらの併科」という罰則であったものが、改正風営法では、「5年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金または併科」となり、懲役(拘禁刑)の上限および罰金刑の金額がそれぞれ引き上げられた。
また、法人への両罰規定についても改正前の風営法では「200万円以下の罰金」だったものが改正風営法では「3億円以下の罰金」へと大幅に引き上げられた。
改正風営法施行後は、無許可営業で有罪になった場合の罰金刑の量刑相場も引き上げられることが予想されるため注意が必要である。
風営法違反が確認された場合、「指示処分」「営業停止」「許可取り消し」の行政処分を受ける可能性がある。
・指示処分……違法行為を改善するための指示
・営業停止……営業の全部または一部の停止を命じる処分
・許可取り消し……許可が取り消され、今後5年間新たに許可を受けられない
風営法違反が確認されたとしても、いきなり営業停止や許可の取り消し処分がなされるのではなく、通常は指示処分が行われる。指示処分に従い、違法状態を改善すればそれ以上重い処分が下されることはないが、改善がなく違法状態を継続していると営業停止や許可取り消しを受ける可能性がある。
ただし、無許可営業や無届営業は、「営業停止」や「許可取り消し」を観念できないため、行政処分ではなく主に刑事処分が下されることになる。
風営法ではカラオケ機器を設置すること自体を規制しているわけではないため、風営法の許可や届出がなくてもカラオケ機器の設置は可能である。しかし、カラオケ機器を設置した上で行う営業形態によっては風営法の許可や届出が必要になることがある。風営法上必要な許可や届出をすることなく営業をしてしまうと、無許可営業や無届営業として刑事処分の対象となるため、適正な手続きを踏んだうえで営業することが大切である。
もっとも、風営法の規定は非常に抽象的な内容であるため、実際の営業方法が風営法の許可や届出が必要なものであるか悩むことも多いだろう。そのようなときはすぐに風営法に詳しい弁護士に相談してもらいたい。
グラディアトル法律事務所は、東京と大阪の2拠点を中心に活動しており、ナイトビジネス業界で全国1000件以上の解決実績がある。風営法違反に関する刑事弁護の経験も豊富である。
また、グラディアトル法律事務所では、500店舗以上の風俗店の顧問弁護士を担当しており、ナイトビジネス業界に特化した弁護士事務所といえるだろう。トラブル対応だけではなくトラブル予防にも力をいれているため、実際にトラブルが生じていなくても気軽に相談してもらいたい。
カラオケ機器を設置して接待行為をするなら風俗営業(1号営業)許可が必要になり、深夜にお酒を提供しながらカラオケをさせるなら特定遊興飲食店営業の許可が必要になるなどカラオケと風営法は密接な関係性を有している。
風営法違反にならないようカラオケ機器を設置し営業をするには風営法に強い弁護士によるサポートが必要にあるため、まずはグラディアトル法律事務所まで相談してほしい。