風俗店からの恐喝・脅迫被害相談解決事例〜ドライバーが店から罰金400万円払えと脅された事例〜

当法律事務所の弁護士には、デリヘルなどの風俗店や、キャバクラ、ホストクラブなど、夜の業界での脅迫・恐喝トラブルの相談も多く寄せられている。

今回紹介するのは、東京都新宿区歌舞伎町にあるデリヘルでドライバーのアルバイトをしていた男性が、女性キャストが辞めたのはお前のせいだと因縁をつけられ、脅されて、罰金として410万円もの損害賠償を請求された事案だ。

風俗店からの脅迫・恐喝事例の概要

昼間は、東京都のとある会社で会社員として働く男性が今回の相談者だ。

相談者は生活費に困っていたわけではなかったが、なかなか貯まらない貯蓄に不満を感じ夜間の空いている時間帯に稼ぐことを考えた。

アルバイトの求人サイトを探し他アルバイトと比較して自由なシフトや高い時給が魅力的だった新宿区の歌舞伎町に事務所を構えるデリヘルのドライバーとして働くことに。

デリヘルドライバーとして働き始めて約半年が経ったある日、キャストを事務所まで送り迎えをした際に巷で流行っていたアイドルグループの話で盛り上がった。
話題は冷めやらぬまま事務所に到着した。

キャストは次の客もいなかったこともあり相談者がそのまま家まで送ることになった。
キャストの家に向かう車内では意気投合し会話が途切れることはなかった。

それから何度かホテルや家への送迎を繰り返し気楽に話せる仲になっていた。

デリヘル店の規則では、いわゆる風紀違反、キャストとの間のプライベート交際が禁止されていた。

風紀違反に関する規則を理解していた相談者は食事や連絡先交換など疑わしき行動はしないよう心掛けていた。

それから3か月後、何事も問題なかった相談者だったが急に事務所に呼び出された。

事務所に入るとオーナーからキャストが退職したことを知らされた。
オーナー曰く、キャストはもともと退職する予定はあったが何故か早まったとのことだった。
楽しみだったキャストとの時間を考えると寂しかったが、なぜキャストが退職したことで呼び出されたのかが分からなかった。

すると「お前(相談者)とキャストはどういう仲なんだ?」と強めに質問してきた。

相談者はキャストと同じアイドルグループに興味を持ち仲良くなったが、交際や連絡先交換などプライベートでの関係は一度もないと伝えた。

しかし、オーナーは納得した様子はなく、相談者を怒鳴りつけ、「お前(相談者)とキャストの間に何かしらトラブルがあったんだろ?だから退職予定が早まった!そうでないとしてもキャストと親しくなることはプライベートな関係と言えるのではないか?お前のせいでキャストが退職したんだから罰金400万円支払え!払わなければ昼の会社や家族にこのことをバラすぞ!」と脅してきた

あまりにも理不尽な請求に相談者は反抗するも「規則は規則だから!」と支払うことを約束する書面を突き出してきた。

相談者は強気の態度を取るオーナーに恐怖を感じ書面へのサインを拒否し制止を振り切って事務所を逃げだした。

恐喝被害を弁護士に相談するまで

事務所を逃げ、一息ついた相談者ではあったが、スマホにはオーナーから何度も着信があった。

特に解決策は見いだせず現実逃避したい一心で相談者はスマホの電源を切って就寝した。
そして翌日、仕事があるので仕方なくスマホを起動すると就寝中ずっとオーナーが連絡してきたであろう着信履歴が100件ほど残っていた。

内容としては「職場や家族を特定して請求するからな!」や「家に請求しに行くからな!」とのメッセージがあった。
また、請求書として410万円の損害賠償を請求する書面の写真も送られてきていた。

損害賠償の内訳はキャストが退職する予定日までに売り上げるはずだった金額300万円、引き抜き行為によってデリヘル店の評価が落ちたとして損害賠償100万円、キャストとデリヘルドライバーの新規雇用費として各5万円と計410万円を請求するとしていた。

相談者は焦りながらも真面目な性格から仕事は放棄出来ないと勤務先に向かい働くことに。
何度か上の空になりながらも仕事をこなし昼食の時間に差し掛かったところで、1枚の写真が送られてきたことに気づいた。

確認してみるとそこには相談者が現在住んでいる家の前から撮ったとされる写真だった。
その続き「逃げられねぇからな!家の前で待ってるぞ!」とメッセージがきた。

このまま家に帰れば鉢合わせし損害賠償の請求だけでなく暴行されるのではと感じた。
誰かに相談することを考えたが風俗でデリヘルドライバーとして働いていることを職場や家族に知られるのは避けたい

弁護士であれば誰にも知られることなく穏便に解決できるのではとスマホ片手にトイレにこもった。

スマホでデリヘルでの脅迫・恐喝トラブルについて調べると風俗業界に精通している弁護士が在籍してる当事務所を発見し「ここなら迅速に解決できるのでは?」と思い、弁護士との無料相談の予約をし、その日のうちに事務所に訪れ弁護士に相談することになった。

風紀違反の損害賠償の有効性と恐喝への弁護士の対応方針

本件で、デリヘルオーナー側の主張は、相談者であるドライバーが風俗店のキャストと私的な交際をした風紀違反については、デリヘルの規則で禁止しており、その規則に違反して損害が生じたことを理由とする損害賠償を請求するというものだ。

そもそも、風紀違反とは、風俗店やキャバクラなどの水商売の店舗において、女性キャストと男性スタッフとの私的な交際・恋愛を禁止し、これに違反することをいう。

多くの風俗店やキャバクラで風紀違反を禁じている理由は、水商売や風俗にとって、女性キャストやそのサービスはお店の商品という考え方があり、商品に手をつけるのはご法度だという考え方があるのだろう。

この風紀違反の有効性については、真摯な交際をも禁止する規定については無効であると判断した、大阪地判令和2年10月19日の裁判例がある。

風紀違反の有効性とこの裁判例についての詳細については、以下の記事を参照して欲しい。

リンク:キャバクラの風紀違反の罰金は違法無効の裁判例!

そのため、弁護士としては、この裁判例の考え方にしたがって、風俗店での風紀違反の規定は無効であり、風俗店オーナーからの請求には理由がないとの主張が考えられる。

また、本件では、私的な交際すらもしておらず、風紀違反規定が有効であるという考え方に立ったとしても損害賠償の理由がないと主張できる事案だ。

さらに、風俗店のオーナーは、罰金を払わないのであれば、家族や職場に風俗店で働いていることや今回のトラブルをバラすと言っている。

これは、相談者の名誉に対する害悪の告知といえるから脅迫に該当する。

そして、脅迫により、相談者を畏怖させ、財物である410万円を交付させようとしており、恐喝に該当する。

(脅迫)
第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

(恐喝)
第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

刑法

以上から、相談者としては、風俗店オーナーに対して損害賠償を支払う義務はないものと考えられる。

しかし、一方で、相手方の行動から察するに適切に対応しないと逆上し個人情報から家族や職場を特定し嫌がらせをされる可能性は否定できない。

相談者としては、「私がデリヘルドライバーとして働けなくなり新規雇用費がかかるのは理解できるので早期解決するのなら多少の金銭を支払っても構わない」と考えていた。

そのため、弁護士は、オーナーから送られてきた請求書にあったデリヘルドライバーの新規雇用費5万円を解決金として提示し合意書を交わすことを提案した。

合意書の内容には、関係者への一切の接触を禁止する条項や個人情報の破棄条項を入れることにより、家族バレ、職場バレのリスクを減らすよう提案した。

相談者は、法的な支払義務がないことを理解した上で、オーナーの暴走リスクを減らすため、「自らの安全が得られるのであればぜひとも対応をお願いしたい」と弁護士に交渉を依頼した。

弁護士による恐喝ブロック交渉による解決

相談者から依頼を受けた弁護士は、早速、デリヘル店のオーナーに連絡し、交渉を開始した。

依頼者の代理人になった弁護士だと伝えるとオーナーは「損害賠償の件ですか?」と聞いてきた。

そうだと伝えたうえで、今後弁護士が窓口となるので依頼者への直接連絡はもちろん、家族や職場など関係者に連絡しないようにと依頼しそれについてはオーナーに了承を得た。

デリヘル店のオーナーは、損害賠償について説明してきた。
また、相談者の行動しか原因が考えられないと損害賠償を請求する正当性を主張してきた。

弁護士は、前述した、風紀違反規定の無効性、依頼者らの友好関係は非常に良かったものの、故意にデリヘル店へ損害を発生させるプライベートな関係とはいえず、損害賠償義務はないことを主張した。

また、オーナーの言動、すなわち、所持している個人情報をチラつかせ家族や職場を特定し請求するといったことは脅迫・恐喝に該当する犯罪行為だと指摘した。

こちらとしては依頼者が受けた脅迫や恐喝行為は明らかな違法行為であり刑事事件化もやむを得ないと警告しつつ、オーナー側が訴訟提起をするのらば、こちらも真摯に対応すると返した。

しかし、デリヘルドライバーである依頼者がいきなり抜けた損害はないとはいえないので補償として新規雇用費である5万円を解決金として支払う準備があると伝えた。

その後、約2週間かけて、オーナー側と交渉を続け、最終的には、5万円の支払いで無事に合意することができた。。

その後、デリヘル店側から相談者に連絡がいくこともなく、無事に解決した。

今回紹介した事例は、風俗店とドライバーとの恐喝トラブルだった。

この他にも、風俗店では客との間の恐喝トラブルも多い。

風俗店と客との間の恐喝・脅迫被害の解決事例については、以下の記事を参照して欲しい。

リンク:《風俗恐喝被害》デリヘル利用で脅迫・恐喝され示談金を請求されたケース

Bio

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。
男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。