風俗の盗撮と迷惑防止条例の関係 – 条例の適用範囲を解説

弁護士 若林翔
2019年11月02日更新

今回は,風俗トラブルで最も多いといっても過言ではない盗撮について,迷惑防止条例規制範囲に焦点を当てた記事だ。

というのも,盗撮行為はなにも公共の場所での撮影行為のみを処罰範囲としているわけではなく,ホテル内や自宅・職場・学校などにも適用範囲が広げられている場合は往々にしてある。

参照:風俗盗撮トラブルについて

そのため,各都道府県において「どこで」「どのような態様でなされた(撮影)行為」が処罰されるのかが重要になる。

そこで,一般的に条例が盗撮行為をどのように規制しているかを解説する。

迷惑防止条例の適用範囲となる盗撮行為の「場所」

各都道府県の迷惑防止条例の適用範囲は様々であり,いきなり条文を掲載しても理解が難しい。そこで,まずは東京都の迷惑防止条例をサンプルにして盗撮行為がどのような場所・態様で規制されているのかを見てみよう。

東京都の迷惑防止条例が盗撮行為を規制しているのは第5条の「(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)」となる。

(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること
住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

(罰則)
第8条 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(1) 第2条の規定に違反した者
(2) 第5条第1項又は第2項の規定に違反した者(次項に該当する者を除く。)
2 次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
(1) 第5条第1項(第2号に係る部分に限る。)の規定に違反して撮影した者

引用|東京都迷惑防止条例(第5条1項,2項以下略)

第5条の表題となる「粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止」は,1962年に迷惑防止条例が制定された当時は愚連隊が社会問題となっていて,その愚連隊の暴走行為を規制するために設けられた条例だった頃の名残となる。社会情勢の流れに応じて都度迷惑防止条例の内容が改正されて今日に至るというわけで。

盗撮行為に対する罰則

さて,東京都では,青色のマークが引かれている場所で,オレンジ色のマークが引かれている行為を行うと第8条2項1号により1年以下の懲役又は100万円以下の罰金を課せられることになる。一方,第5条1項1号の「(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。」に規定されている痴漢行為を行った場合には第8条1項2号により6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が課せられることになる。

両者を比較すると,

盗撮行為:1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
痴漢行為:6月以下の懲役又は50万円以下の罰金

となっており,痴漢よりも盗撮行為の方が厳しく規制されているのだ。現代のネット社会においては盗撮データの頒布・流出により,一層のプライバシー権侵害の危険が生じることになるため,痴漢よりも盗撮の方が罰則が厳しくなっているのだろうか。

盗撮行為の構成要件(刑罰を課すための必須要件)

東京都における迷惑防止条例において,盗撮行為が罰則の対象となるのは,

①:住居便所浴場更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所

②:公共の場所公共の乗物学校事務所タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物

上記①又は②の場所において,

③:人の通常衣服で隠されている下着又は身体を

③−1:写真機その他の機器を用いて撮影し,又は

③−2:撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること

上記③−2までの行為を行うと,盗撮行為として処罰されることになる。

規制されている場所①(人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所)

①はいわゆる私的空間といわれいてる場所となる。ここで重要になるのが,「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」が規制の対象に含まれているかどうか。
風俗トラブルにおける盗撮行為においてよく問題となるのが,ラブホテルやビジネスホテルなどでの盗撮行為に及んだケース。
「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」がいわゆるホテルを指すと一般に言われているため,この文言がない場合には,ホテル内での撮影行為は盗撮として規制の対象になっていない可能性があるのだ。

同じホテルでも大浴場が付いているホテルなどでは,そのホテル内の大浴場に関しては,東京都の条例でいうところの「浴場」にあたることになる。しかし,宿泊客が寝泊まりする客室は,住居や浴場・更衣室とは言い難い。

しかし,デリヘルやメンズエステ等では客室などでサービスが提供されることが一般的であり,むしろホテルの客室を規制するべきという意見が多い。そのような経緯もあり「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」としてホテルや旅館などの客室も規制の対象になっているのだ。

規制されている場所②(公共の場所や乗物)

「公共の場所」がどこを指すのかといえば,道路,公園,駅,興行場,飲食店その他の公共の場所茨城県条例第2条柱書参照)が,一般的には「公共の場所」を指すと言われている。一概に茨城県の条例を東京都の場合にもそのまま適用できるわけではないが,似たような制度趣旨から作られている条例なので,文言解釈で大きく異なるということはないのではないだろうか。

ちなみに埼玉県条例では,興行場その他公衆が出入りできる場所,という定義付けがなされていたりする。

次に,「公共の乗物」とは,同じく茨城県条例から,汽車,電車,乗合自動車,船舶,航空機その他の公共の乗物などをいうと解されている。これも東京都条例にそのまま適用されるわけではないことに留意してもらいたい。

また,「学校,事務所,タクシー」とあるが,これに関しては以前までは公共の場所や乗物しか規制されていなかった結果,学校の教室や職場の会議室などが「公衆が出入りできる場所」とはいえないため,隠しカメラで撮影を行っていても盗撮として処罰することができなかったことがきっかけとなって,新しく文言が追加されている。

「事務所」には,企業の職場や会議室・応接室等が含まれているとみていいだろう。

規制されている場所②(不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物)

さらに,「不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物」について,これがいわゆるホテルの客室を規制の対象としている根拠という説明の仕方もある。
というのも,各都道府県警察の運用や弁護士の解釈によって,ホテルの客室がどちらの文言で規制されているのか判断が異なることがある。

・「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」
・「不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物」

この論点に関しては,まだ解釈が定まっていないところがあるが,当事務所の見解としては,ホテルの客室は「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」として規制場所の範囲に含まれているが,かかる文言が規定されていない場合には「不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物」で規制される可能性もある,ということを前提にしたいと思う。

規制されている行為③

人の裸や下着姿を撮影することはもちろん,東京都の場合は撮影目的で機器を「差し向け」または「設置すること」も規制している。
これは盗撮犯が「カメラは向けているけど電源が入ってないから盗撮ではない」と弁解しても,被害者としては電源が入っていようが入ってなかろうがそれを知る由はなくプライバシー権を侵害されたことには変わりがないから,というふうにも解釈できる。被害者の主観面を重要視しているようにも読み取れる。

盗撮と迷惑防止条例の関係まとめ

風俗トラブルにあった際には,この記事を参考に,各都道府県の迷惑防止条例を読んでいただき,当該行為が迷惑防止条例に規定する盗撮行為に該当するのかを考えて欲しい。

実際に,盗撮行為をしてしまい,迷惑防止条例に該当するような場合には,逮捕されてしまったり,のちに民事訴訟で損害賠償が認められる可能性がある。

他方で,風俗店側が,スマホや小型カメラでの撮影=盗撮と決めつけて法外な金額を請求してくることもある。

このサイトを参考にしてもらいながら適切な対応を心がけてほしい。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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