【風俗トラブルと不貞慰謝料】風俗利用で不倫慰謝料請求ができるか?判例を基に弁護士が解説!

弁護士 若林翔
2021年06月21日更新

法律上、結婚している既婚者(夫・妻)と不倫をした場合、不倫をされた(妻・夫)は、夫婦の相手方と不倫相手に対して損害賠償請求ができます。

では、夫が風俗店を利用した場合、妻は夫や風俗嬢に対して不貞(不倫)の慰謝料の請求ができるのでしょうか?

妻が風俗店で働いていた場合、夫は風俗店の客に慰謝料請求ができるのでしょうか?

いくつかの裁判例を紹介しつつ、解説していきます。

本番や盗撮などの風俗トラブルで慰謝料を請求された場合の対処法等については、以下の記事をご参照ください。

リンク:【風俗トラブル】慰謝料を請求される4つのケースと適切な対応方法

典型的な風俗トラブルである、盗撮や本番強要については、以下の記事をご参照ください。

リンク:風俗トラブルの弁護士無料相談

不倫・不貞・浮気とは

「不倫」や「浮気」という言葉は、テレビ等でも耳にする機会が多いかと思います。そして「不倫(浮気)」された側からすれば、配偶者に離婚や慰謝料請求、不倫(浮気)相手にも慰謝料を請求したいと多くの方が思うことでしょう。

法律上は「不倫」や「浮気」という用語はなく、「不貞」という言葉が使われます。

具体的には、民法770条1項1号は「配偶者に不貞な行為があったとき」と定め、裁判上の離婚ができる場合と定めています。

(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

民法

この不貞行為の定義について最高裁は、「貞操義務に違反する行為全般を指すのではなく、自由な意思に基づき、自己の配偶者以外の者と性関係を結ぶことをいう」としています(最判昭和48年11月15日民集27巻10号1323頁)。

民法七七〇条一項一号所定の「配偶者に不貞の行為があつたとき。」とは、配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうのであつて、この場合、相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わないものと解するのが相当である。

最判昭和48年11月15日民集27巻10号1323頁より引用

すなわち、法律上は、自分の配偶者(夫・妻)以外との性的関係を結ぶこと(性交や性交類似行為)が「不貞」行為であり、後述するように慰謝料請求の対象となります。

ですので、これを逆からみれば一般的に「不倫」や「浮気」といえるような行為があったとしても、そこに性行為や性交類似行為がなければ、基本的には慰謝料請求の対象とはなりません。

酷な話かもしれませんが、たとえば、いわゆるプラトニックな関係で、配偶者が純粋に別の異性を好きになってしまった場合には、離婚に伴う慰謝料は別にして、原則として、その関係自体を対象として配偶者・不倫相手に慰謝料請求することはできないことになります。

まとめると、不貞・不倫・浮気は、法律上は自分の配偶者(夫・妻)以外との性交や性交類似行為を行うことになります。

不貞・不倫の慰謝料請求とは

不貞・不倫・浮気があったときには、自分の配偶者や不貞行為の相手方に対して、不法行為に基づく慰謝料請求(民法709条)ができます。このような行為は婚姻共同生活の平和を害するため、この権利を侵害されたことによる精神的苦痛を損害賠償として請求できることになります。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法

不貞慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償という性質であるため、その額の判断は、夫婦の婚姻期間、同居の有無、不貞期間、夫婦に子供がいたか、婚姻関係が破たんしたかなどの要素を総合的に考慮することになります。

不貞(不倫・浮気)の境界線はどこから?

不貞(不倫・浮気)の定義は、「貞操義務に違反する行為全般を指すのではなく、自由な意思に基づき、自己の配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」です。

したがって、夫・妻以外といわゆる本番行為やこれに類似する性的な関係をもってをしてしまった場合は、法律上の不貞(不倫・浮気)となるでしょう。頻度や期間は不貞行為となるか否かという面では考慮されません。なので、たとえワンナイトであっても、法律上は、不貞(不倫・浮気)となります。

不貞は、「自己の配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」なので、肉体関係がないような場合は、法律上の不貞・不倫・浮気とはいえないことになります。

ただし、これらも離婚原因の「婚姻を継続し難い重大な事由」にはなりうるので注意が必要です(民法770条1項5号)。

風俗利用は不貞・不倫に該当するか?

不貞行為は、「自己の配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」をいうので、相手が風俗嬢であっても不貞・不倫・浮気となりえます。ソープランドなどの本番行為が想定される風俗店、デリヘルなどの性交類似行為が前提とされる風俗店の利用は不貞行為に該当するといえるでしょう。

妻が風俗嬢として働いていた事案ですが、最判昭和38年6月4日家月15巻9号179頁も不貞行為が成立することを前提としています。

したがって、風俗を利用することは、不貞行為には該当します。

そして、不貞・不倫・浮気となる場合であり、婚姻共同生活の平和を害するようなものであれば、当然慰謝料請求が認められることになります。

夫婦間の慰謝料請求(風俗利用の夫に対する妻の請求)

夫の風俗利用や妻が風俗嬢になっていた等の場合に、慰謝料請求はできるでしょうか。

最近では、女性用の風俗店も人気ですから、風俗利用をした妻に対する夫の請求などについても同様のものとして考えていきます。

前述したように、ソープランドやデリヘルなど、性交や性交類似行為が行われる風俗の利用は不貞行為に該当しますので、これにより婚姻共同生活の平和を害されたといえる場合には、風俗利用をした夫に対して、妻は慰謝料請求ができるでしょう。

風俗客に対する慰謝料請求

既婚者の風俗嬢のサービスを受けた風俗客は、風俗嬢の夫から慰謝料請求をされることはあるのでしょうか?

単に、風俗店を利用した客の行為が、不貞行為として、慰謝料請求の対象となることは原則としてありません。

ただ、風俗を利用しただけですから、このことが原因で婚姻共同生活の平和を害するとはいえないからです。

なお、既婚者のメンズエステで勤務するセラピストの女性と複数回にわたって本番行為(性行為)を繰り返した事例で、メンズエステの客に対する慰謝料請求を認めた裁判例(東京地判令和2年12月10日)があります。この裁判例は、「不貞行為は4回に及び、原告が心理的苦痛を感じていること」等を考慮して、夫から客への慰謝料請求を認めました。

風俗嬢に対する慰謝料請求

既婚者である夫が風俗店を利用した場合、妻は、サービスを提供した風俗嬢に対して慰謝料請求ができるのでしょうか?

この点について、裁判所の判断は別れています。

東京地裁令和3年1月18日判決は、夫Cがホテヘルを利用したことが不貞行為となるかが争われた事例で、夫Cとホテヘル嬢(被告)との間に性交(本番行為)があったと認定したうえで「本件店舗の従業員と利用客という関係を超えた個人的な男女の関係があったと認め」られないこと、「風俗店の従業員と利用客との間で性交渉が行われることが、直ちに利用客とその配偶者との婚姻共同生活の平和を害するものとは解し難く、仮に、婚姻共同生活の平和を害することがあるとしても、その程度は客観的にみて軽微であるということができる」として、慰謝料請求を認めませんでした。

なお、後述する枕営業事件では、傍論として「ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には、当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものでないから」不法行為を構成しないとしています(東京地裁平成26年4月11日)。

結局は、種々の事情を総合的に判断して、婚姻共同生活の平和を害するか否かが判断されることになります。

店外デートをした場合であっても、基本的には、風俗店の利用のみの場合と同様に考えることができるでしょう。

裁判例では、クラブのママないしホステスが顧客と性交渉を反復・継続していた事例で、「クラブのママないしホステスが、顧客と性交渉を反復・継続していたとしても、それが『枕営業』であると認められる場合には、売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたにすぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではないと解するのが相当」としました(東京地裁平成26年4月14日)。

他方で人妻風俗店の利用が問題となった事例では、複数回の性交渉があったにもかかわらず、「対価を支払ったのが1回のみであること」等から、個人的な交際があったと判断され、不貞慰謝料請求が認められました。

風俗利用と不貞慰謝料のまとめ

風俗利用と不貞・不倫・浮気をまとめるとこのようになります。

・風俗利用も不貞行為となりうる
・ただし風俗利用が慰謝料請求の対象となるかはケースによる

風俗利用は、慰謝料請求の対象となり得ます。

もっとも、裁判例は様々な事実を考慮して、慰謝料請求の対象となるか否かを判断しています。

このような判断は、非常に法律的な判断を伴います。もし、風俗を利用したことで慰謝料請求をされないか、又はしたいと思った場合や、風俗店に勤務していて慰謝料請求をされてしまったということがございましたら、遠慮なく弊所にご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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